楽天市場とアマゾンの違い

当時指摘したのは、楽天市場とアマゾンの違い。楽天はECの黎明れいめい期である1997年に、当時アメリカで流行していた「ジオシティ」というコンセプトをモデルに、仮想のショッピングモール「楽天市場」をインターネット上につくった。ユーザーが出店している店舗から商品を買い、楽天は手数料で利益を得るビジネスモデルである。

このビジネスモデルの問題点は2つある。1つは物流を握っていないこと。商品を届けるのは第三者依存で、自社ではコントロールができない。

もう1つは、売り上げが立たないこと。商品が売れて取扱高が膨らんでも、楽天市場自身は場所貸しにすぎないので、計上できる売り上げが小さい。

それに対して、00年に日本でEC事業を開始したアマゾンは、自身が企業から商品を買って倉庫に在庫を持つ。このモデルだと物流を管理できて、売り上げも立つ。アマゾンがウォルマートと競い合う世界最大規模の小売業者になったのは、単なるサイバー上の場所貸しにならなかったからである。

三木谷会長兼社長には、ビジネスモデルを見つける才能はある。時代を先取りして、楽天市場というECをつくった嗅覚はさすがだ。しかし、その後アマゾンが出てきたときに、両者のビジネスモデルの違いを理解できなかったのだ。アマゾンの進出時から対抗手段を打っていれば、今ほどEC事業で差をつけられることはなかった。

12年に買収した電子書籍事業Koboも、アマゾンのKindleに大きく後れを取っており、散々だ。

シリコンバレーにある楽天本社
写真=iStock.com/Sundry Photography
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14年にメッセージアプリのViberを買収したが、この狙いは悪くなかった。

流行っているメッセージアプリは、国によって違う。日本ではLINE、イギリスやインドではWhatsApp、アメリカやフランスではFacebook Messenger、中国ではWeChat。そしてヨーロッパ、とくにギリシャやウクライナではViberの人気が高い。

世界で最も利用されているメッセージアプリであるWhatsAppの月間利用者数は20億人。Viberの月間利用者数は2.6億人だが、LINEの月間利用者数が2億人弱ということを考えると、ヨーロッパで健闘しているのがわかる。

メッセージアプリのシェアをイギリスやフランスを含めたヨーロッパ全体で掌握し、勢いそのままに日本へ輸入してLINEを打倒しようと、Viberに目をつけたところまでは良かった。しかし、その後がよろしくなかった。

Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある。買収後にミンスクのオフィスを2度ほど訪問したことがあるが、現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。

三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ。