「サクラサク出前セット」

改めて、昨年度製品化が決まり、この秋に販売された「キットカット サクラサク出前セット」の開発に関わる経緯を確認しよう。この企画は、もともとSカレの最終報告時点では、「きっと勝つ丼」というコンセプトだった。名前の通り、キットカットと勝つ丼というげん担ぎの定番を組み合わせた商品企画であり、本当のカツ丼は入っていないが、それに模した容器と味(ソースカツ丼味のキットカット)を考えることで、キットカットの価値をさらに高めようとしたのだった。

Sカレの最終プレゼン後、学生とネスレのやりとりが行なわれ、きっと勝つ丼のコンセプトの見直しが行なわれることになった。例えば、キットカットというブランドはチョコレート菓子であり、カツ丼という食べ物とは別の商材である。それゆえに、素直に名前を組み合わせてしまうと、キットカットが何であるのかがはっきりしなくなってしまう。また、キットカットはすでにげん担ぎのアイテムとして最も評価されており、そこにあえて勝つ丼を足すという点についても、ブランドとの齟齬があると考えられた。そこで、商品の大枠の形は残すにしても、ネーミングからの再検討が必要になった。

パッケージのプロタイプも作られていたが、実際の開発にあたっては改めてデザインを考える必要もあった。実際の開発にあたっては、1個1個を手作業でつくるわけではなく、実際にある程度のロットをまとめてつくることになるからである。当然そこで求められるデザインは、プロトタイプの段階とは異なっている。本来であればそこまで見越してプロトタイプを考えるということになるのかもしれないが、Sカレでそこまでを実現するのはなかなか難しい。

学生からの商品企画が、どんなにサイト上で支持者を集められたとしても、それがそのまま最終製品となるわけではないことがわかる。先のマイナビでも確認したが、学生や消費者のアイデアそのものが最初から画期的で完璧というわけではない。

こうした意見の擦り合わせに際しては、学生たちは山口から何度も神戸を訪れ、ネスレとの打ち合わせを行なったという。そして、最終的にネット上で発売できる商品が企画されることになった。商品は限定200個で販売され、すでに売り切れの状態となっている。さらに、この企画そのものは、山口大学から山口県を中心とした地域活動に波及し、山口市の山口天神祭や高知市でのコラボグランプリへの出展が実施された。Sカレに多くの人々が関わることによって、ただたんにユーザー参加型製品開発が進められるのみならず、もっと広がりを持ちつつあることに気づかされる。

ちなみに、こうした地域への波及効果は、山口大学の担当であった藤田健准教授によるソーシャルメディア上の活動が直接的だったようだ。すでにある程度地域内での主要メンバーとつながりがある状態において、学生発の商品企画が開発発売されたというメッセージが伝播することによって、その利用や応用が活性化したのである。

ネスレでは、Sカレの規模感やそのオープン性に期待を寄せているという。類似した学生参加型のプロジェクトの多くは、どちらかというと限定された範囲内でクローズドに開催される。これに対して、Sカレは誰でも参加できるし、誰でもコメントできる。その可能性の一つとして、Sカレを知って興味を持った人々がそれぞれに目的を持って関わり、何か新しい方向性や価値が生まれてくるとすれば、これはとても魅力的な場だということになる。