興味深いランダム化比較試験

丸山ワクチンを製造している製薬会社が臨床試験を行って、「どういう疾患の患者さんに、丸山ワクチンを使うと、使わない場合と比較して、どれぐらい効果があるのか」を示せば保険適用されるかもしれません。そうして効果を証明できれば、日本だけでなく海外でも販売できますし、何よりもより多くの患者さんのためになります。しかし、臨床試験には消極的です。

それでも、子宮けいがんに対して放射線療法と組み合わせた丸山ワクチンの上乗せ効果を評価した二重盲検ランダム化比較試験がいくつか施行されています。その内容や経緯が興味深いのでご紹介しましょう。

丸山ワクチンには濃度の異なる「A液(2μg/mL)」と「B液(0.2μg/mL)」があって、通常はA液とB液を交互に皮下注射します。丸山ワクチンに効果があると信じる医学者なら、実薬群はA液とB液を交互投与、対照群はプラセボ(偽薬:生理食塩水など)を投与する臨床試験を考えるでしょう。

しかし、2006年に発表された第3相ランダム化比較試験においては、実薬群にはA液でもB液でもなく、A液の20倍の濃度の40μg/mLが投与されました(※2)。しかも不思議なことに、対照群にはプラセボではなくB液が投与されました。論文には、日本においてプラセボの使用は倫理的に不可能なので代わりに丸山ワクチンB液を使用したと記載されています。しかし、この研究では対照群においても標準治療である放射線療法は行われるので、本来は問題ないはずです。

※2 Phase III double-blind randomized trial of radiation therapy for stage IIIb cervical cancer in combination with low- or high-dose Z-100: treatment with immunomodulator, more is not better

注射器と薬瓶
写真=iStock.com/Eduard Lysenko
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実薬より偽薬の生存率が高い⁉︎

私が推測するに、製薬会社は丸山ワクチンが効くとは本気では思っていないのでしょう。この推測が正しければ、通常の用量のA液とB液の交互投与を実薬群とした臨床試験を行わないのも説明がつきます。きちんとした臨床試験を行って白黒つけなくても薬は売れるのですから、営利企業の方針としては妥当です。

通常の用量では薄すぎて効果がなくても、濃度の濃い丸山ワクチンを放射線療法と組み合わせれば効く可能性がある、と考えたのでしょう。そして、薄い丸山ワクチンB液が効くとは思っていないので対照群に使用したと考えられます。

「実薬群40μg/mL」と「対照群0.2μg/mL」を比較したランダム化比較試験の結果は、大変興味深いものでした。有意差がついたのです。ですが、予想に反して、実薬群ではなく対照群のほうが生存率が高かったのです。丸山ワクチン支持者は丸山ワクチンB液が効いた証拠だとみなしますが、B液が効いた可能性以外にも、単なる偶然という可能性や濃度の濃い丸山ワクチンが有害である可能性も考えられます。この研究だけでは、どの可能性が正しいのかはわかりません。

そこで、改めて丸山ワクチンB液と生理食塩水とを比較した第3相ランダム化比較試験が行われました。2014年に論文が発表されています(※3)。対照群と比べて実薬群において生存率がよい傾向があったものの有意差はなく、この研究でも丸山ワクチンの効果は証明できませんでした。

※3 Phase III placebo-controlled double-blind randomized trial of radiotherapy for stage IIB-IVA cervical cancer with or without immunomodulator Z-100: a JGOG study