日本の学校にはどんな課題があるのか。インドのムンバイ出身で、2023年に海外出身者として初めて日本の公立高校の公募校長に就任したプラニク・ヨゲンドラ(通称よぎ)さんは「日本の先生方は本当によく働く。長時間残業も含めて150%の力で働いている。問題なのは、何を目指して仕事をしているかが時に明確ではないことだ」という――。(後編/全2回)
プラニク・ヨゲンドラさん
撮影=プレジデントオンライン編集部
海外出身者として初めて日本の公立高校の公募校長に就任したプラニク・ヨゲンドラ(通称よぎ)さん

実績を出した後に「理想の教育」を進める

前編から続く)

日本の中等教育はカリキュラムが多すぎて、教員には一定以上の目標を持つ余裕がない。進学校だと、難関大学への進学実績が問われ、それ以上のことが目標にならないでしょう。進学実績が落ちてしまえば、定員割れを招いてしまうのではと恐れていることもあります。

私自身は、前編でも話したように、難関大学への進学競争にとどまらず、世界に通用する生徒を育てる学校にしたいと考えているのです。それが、今の日本のニーズでもあります。しかし、本校には茨城県では難関大学入学者実績ナンバーワンというプライドがあります。

そこで、いきなり自分が理想とする学校を目指して変革を強行するのではなく、まずはそのプライドを満たすために伝統的な目標を達成してから、世界に通用する生徒育成を目指したいと考えるようになりました。

「何を目指して仕事をしているか」を見失っている教師もいる

日本の社会では、専門性があまり生かされていません。例えば、銀行の幹部は工学部や法学部卒ばかりで、経理、財務を学んでいません。日本では専門性を生かしているのは医者や建築士などの限られた業界でしょうか。これまではそれでも大丈夫だったかもしれませんが、これからの日本は、このままでは世界に通用しません。今や、インドは凄まじいスピードで世界を制覇する優秀な人材を排出しています。

戦後の日本経済を成長させてきたのは専門性ではなく情熱だったのかもしれません。今の企業には当時のような情熱は感じられず、入社後の社内教育も十分に行われず、研究やものづくりも後退し、グローバル競争に通用しなくなりつつあります。

学校の教師も同様です。日本の先生方は本当によく働きます。長時間残業も含めて150%の力で働いています。そこで問題なのは、仕事に熱中しすぎるあまり、最新の知識や技術を学ぶことや訓練が減っていることです。日本の教育現場で情熱も訓練も失われたら、いったい何が残るのでしょうか。