悩み事はないほうがいいのに、自ら悩みを招き入れてしまうこともある。心理学者で立正大学客員教授の内藤誼人さんは「例えば、健康上の知識が増えると悩みも増えてしまうということがある。ケースによっては、臭いものにはさりげなくフタをして、見なかったことにしておくのが精神的に健康でいられるコツ」という――。

※本稿は、内藤誼人『人間関係に悩なやまなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。

オットマンの上で、伏せをしている子犬
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人の心は、私たちが思っているよりも強い

「トラウマ」という言葉は、もともとは心理学の学術用語だったのですが、今ではすっかり日常語になってしまいました。大変に苦しい思いをすると、「なんだかトラウマになりそう」などと、普通の人でも使います。

さて、トラウマ的な出来事が起きたときには、どういう対応をすればいいのかというと、すぐにどうにかしようとするのではなく、まずは少し様子を見ましょう。あわててカウンセラーのところにかけこまなくてかまいません。

コロンビア大学のジョージ・ボナノは、配偶者が亡くなってしまい、悲しみに打ちのめされたときでも、カウンセリングが必要かというと、決してそんなことはないと述べています。

たいていの人は自分の力で、人間関係の喪失の苦しみから立ち直るのであって、カウンセリングを受けると、かえって回復力が弱められてしまい、事態がさらに悪化する可能性さえあるとボナノは指摘しています。

失恋をしたとか、受験に失敗したとか、苦しく感じる出来事が起こったとしても、すぐにどうにかするのはやめましょう。

私たちの心には、自然な回復力が備わっているのです。ものすごく悲しい気持ちになったとしても、カウンセラーにすぐに助けを求めるのはどうなのでしょうか。

私は心理学者ですので、本来なら同業者であるカウンセラーの肩を持って、「苦しいときにはカウンセリングやセラピーを受けるといいよ」とアドバイスしたいところですが、まずは自分の自然な回復力を信じたほうがいいような気がします。

病気になったときもそうで、ちょっと熱が出たからといって、すぐに解熱剤を飲む必要はありません。

なぜなら、私たちの身体は非常に良くできていて、ウイルスが身体に侵入すると、体温を上げることでウイルスをやっつけようとする自然な免疫メカニズムが備わっているからです。たいていの病気は、2、3日寝ていれば自然に治るのです。解熱剤などを飲んでしまうと、かえって自然な免疫力が弱まってしまいます。

心の病気についても同じです。どんなに苦しい出来事が起きても、しばらくの期間を乗り切れば、自然に受け入れることができるようになります。乗り切る時間がどれくらいになるかは、人によって違うと思いますが、「一生、苦しいまま」ということは絶対にありません。熱が出ても、しばらくすると自然に熱が引いていくように、心の悩みも少しずつ、少しずつ和らいでいきます。