この体たらくでも30年会社がもった理由

――やはり原点というのは、大事ですね。人に着目することもそうですし、会社は何のためにあるのかということもそうです。

物心一如の繁栄です。これ、わかりにくいんですけど、250年通用する存在意義ということになったら、このレベルのものになるんだと私は納得したんです。

逆にいえば、その長いスパンからこの先50年ほどを切り取ったら、と考えると、一人ひとりの生涯の健康安全・快適、地球環境問題の解決ということになるわけです。

ただ、こんなことを言っていたところで正直、アナリストの評価が上がるわけでもない。それでも、そうであっても、私は曲げるつもりはありません。

そもそも、この体たらくでも30年会社がもったのは、結局、根底にこういう思想があったからだと思っています。その意味では、機関投資家の理解はありますね。

そして、トップがどんなことを発信していくのか、発信の比率も大事だと思っています。財務諸表や財務面での目標に偏重してしまうと、心の部分がおろそかになりかねない。

これは、なかなかうまくいっているとは言い難いんですが、財務的なところでは、私は営業キャッシュフローとROIC(投下資本利益率)以外は数字見ないよと言っているんです。営業キャッシュフローですら結果指標なんですよね。そうしたら、非財務の指標って、どう見ますか、という話です。

非財務の指標で、例えば生産性がわかりやすいですが、トヨタ生産方式だと労働生産性と設備生産性と材料生産性を見るんですね。そこには、景気や不景気は関係がない。自分のパフォーマンスを上げるということにおいては、何も変わらない、と。

だから、コスト競争力にしても、設計の面で部品点数を下げていくこともあれば、生産性を限りなく上げて効率良くモノが作れるというのもある。

こういうことをやっていくんだという発信と、経営基本方針的な発信で、私の発信の8割くらいになります。利益や販売や営業キャッシュフローというのは、全体に対する発信の中ではほとんどない。結果の報告はしますが、なんぼ目指しましょうなんていうことはしない。もちろん、事業会社はそういう発信をするんですけれども。でも、営業利益の目線は低いやないか、みたいな話は、事業会社の責任者レベルの人間との間でしかしないようにしているんです。