幸福度低下への対策は「お金」

これまで見てきたとおり、幸福度と年齢の関係はU字型になっており、50歳前後で幸福度が落ち込む傾向にあります。

しかし、近年の研究の結果、幸福度の落ち込みが見られなかったり、その落ち込みが小さく済む場合があることが明らかにされています。

その鍵となる要因は、ズバリ「お金」です。

オランダのライデン大学のディミッター・トシコフ准教授は、年齢と幸福度の関係が所得水準によってどのように変化するのかを検証しています(*4)。その分析の結果、所得を10段階に分割した場合、所属する所得階層によって年齢と幸福度の関係が大きく異なることがわかりました(図表2)。

【図表2】年齢と幸福度の関係のイメージ図
※『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)より

日本で中年の危機はさらに深まる可能性

彼の分析の結論は、「高所得階層に属する場合、幸福度と年齢の関係はほぼフラットになり、50代における幸福度の落ち込みは観察されない」というものでした(図表2の〈B〉)。

この結果から、高い所得が50歳前後の理想と現実のギャップを解消するだけでなく、介護や子育ての負担にも対処していると解釈できます。やはり、お金の力は絶大です。

彼の分析によれば、所得が最も低い階層の場合、年齢と幸福度の関係がホッケースティックのような形状になると指摘しています(図表2の〈C〉)。ホッケースティックということなので、ある時期まで減少し、その後少し上昇するといった具合です。より具体的には、50歳になるまで幸福度が低下し続け、その後少しだけ幸福度が上昇するというかたちになっていました。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

また、所得が中間層の場合、幸福度と年齢の関係はU字型になるものの、50代における幸福度の落ち込みは、低所得階層よりも小さくなっていました(図表2の〈D〉)。

長い人生の中で浮き沈みはありますが、平均的に見た場合、50歳前後で幸福度が最も低くなります。そして、これへの対応策は、「お金」です。「地獄の沙汰も金しだい」という言葉がありますが、やはり経済的な豊かさは、幸せにとって欠かせない要因の一つだと言えるでしょう。

ここで気になるのが、日本では平均年収がなかなか伸びない状況にあるという点です。それにもかかわらず、消費税や社会保険料は増えています。このため、実際に手元に残るお金(=可処分所得)が減少しているわけです。

右肩下がりで落ちていく給料
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

このような状況下にあるため、幸福度が落ち込む「中年の危機」が今後さらに深まることが懸念されます。

*1)Blanchflower, D. G. (2021). Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. Journal of Population Economics, 34,575–624.
*2)Graham, C., & Ruiz Pozuelo, J. (2017). Happiness, stress, and age: how the U curve varies across people and places. Journal of Population Economics,30, 225–264.
*3)Schwandt, H. (2016). Unmet aspirations as an explanation for the age U-shape in wellbeing, Journal of Economic Behavior & Organization, 122,75-87.
*4)Toshkov, D.(2022). The Relationship Between Age and Happiness Varies by Income. Journal of Happiness Studies, 23, 1169–1188.