大半の実業団選手はランナーとしての価値が低い
選手の中には箱根駅伝でチヤホヤされることに快感を覚えるケースもある。実業団に進むときも、破格の条件を提示される場合があり、結果として、「自分たちは特別なんだ」とカン違いしたまま、社会人になってしまうこともある。
しかし、惨酷なことを言うようだが、大半の実業団選手はランナーとしての価値は高くない。長年、高校、大学、実業団などを取材する立場からすれば、それは明白だ。だが、本人はその現実に気づいていないことが多い。
ランナーとして食っていくのは大変だ。
「実業団」は日本独自のシステムで、海外の場合は「プロ」が一般的だ。世界トップクラスになればスポーツメーカーなどの契約金もあるが、プロ選手の収入は出場したレースの賞金がメインとなる。勝てなければ稼げない。
招待で出場する場合、交通費などは大会主催者側が負担するが、一般出場の場合は自費で参加するため、賞金を手にしないと、稼げないどころか赤字になってしまう。
一方、実業団の場合はレースに参加する費用はチームが負担する。賞金を手にできなくても、固定給がある。日本の実業団選手は大半のプロ選手よりも非常に恵まれた環境で競技をしているといえるだろう。しかも、選手を引退した後も会社を辞めなければ生活は保証されている。
大半の実業団選手は、賞金だけで食っていくことはできないレベルにある。選手としての実力は低いが、日本では実業団駅伝があるから非常に優遇されているのだ。
実業団チームに入社しても、社業は半日ほどで、あとは練習に集中できる企業が一般的だ。選手は合宿で職場を離れることも多いため、責任ある仕事を任される機会は非常に少ない。そして競技を長年頑張れば頑張るほど、同世代の社員との経験値は開いていくことになる。“特別待遇”のメリットが、逆にデメリットとなり、その後のキャリアにも影響する。体力・気力の限界を理由に競技を引退した後の生活に苦悩している元選手は多い。
ある大学のベテラン監督は、「選手は先のことをさほど考えていないですし、勧誘する実業団チームも競技引退後の具体的な説明をすることはほとんどありません。競技を頑張ってきたとしても、人生のハードルを越えてきていないんです。1000円稼ぐのがどれだけ大変なのかわからない。高校、大学、大企業に苦労なく入ってきているので、社会人になって挫折したときに、次の職がないんですよ」と選手たちのセカンドキャリアを心配している。