背景には急速な金利引き上げがある
世界的な金利上昇も、不動産市況を追加的に下押しした。2022年3月以降、米国の連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)などは、物価安定をめざし急速に政策金利を引き上げた。短期から超長期まで、国債の利回りは上昇した。国債は無リスク資産だ。一方、不動産のリスクは高い。オフィスなどの賃料は変動する。流動性も低い。
テレワーク増加による需要減少、金利上昇などは、商業用不動産の価値下落リスクを高めた。リスクに見合った利得を確保するために、大手の金融機関などは不動産向けの融資金利を引き上げた。
ウィーワークやシグナなどは利払い費用の増加に直面した。新規の借り入れも難しくなった。両社は保有資産の売却などリストラを進めて目先の資金繰りをつなごうとしたが、万策尽き果て破綻した。
不動産業界の負の影響は金融、株式市場にも
今後、世界的に、不動産関連企業のデフォルトや経営破綻は増えるだろう。商業用不動産分野でのクレジット関連商品(債券、ローン、証券化商品)の価値下落リスクは高まり、世界経済全体に負の影響が及ぶ恐れも高まる。特に、株価の下落リスクは上昇しそうだ。
シグナの経営不安が高まる中、スイスの富裕層向け資産管理会社である“ジュリアス・ベア・グループ”が同社に約6億ユーロ(960億円)の資金を貸し付けたと報じられた。11月20日、ジュリアスベアは破綻に備えて貸倒引当金を計上した。業績悪化懸念は高まり、ジュリアスベアの株価は下落した。株価下落により信用力も低下する。
類似のケースは、中国や米国などでも増えるだろう。投資先の破綻、そのリスク上昇によって、資金を投じたファンドのバランスシートは傷む。低金利環境下で借り入れを行い(レバレッジをかけて)資金を運用したファンド運営会社も多い。商業用不動産の価格下落、それに投資したファンドのクレジットリスク上昇を避けるために、主要投資家や大手の金融機関は、関連する株式などの持ち高(ポジション)削減を急ぐとみられる。