わが国の半導体産業は「重要局面」に

今後、世界の企業の業務運営の効率化などでAIの利用機会は急増するだろう。新薬開発などでもAI利用の重要性は高まる。米オープンAIでは、解任されたサム・アルトマン氏が、電撃的にトップに復帰した。オープンAIに出資する企業などもアルトマン氏の手腕発揮を求めた可能性は高い。

AIというソフトウェアの安全な利用のために、それを支える半導体などハード面の製造能力向上の重要性は高まる。その点で、わが国の半導体産業は復活を目指す重要な局面を迎えた。

1990年代以降、グローバル化への対応の遅れなどから、わが国の電機メーカーの競争力は低下した。その結果、半導体の製造能力は回路線幅40ナノメートルで止まった。その後、経済を支えた自動車産業は、EVシフトの遅れに直面している。わが国は、半導体産業の復権をめざし、経済成長を支える産業に育成する必要がある。

世界企業の意思決定スピードに対応できるか

国内で、TSMCが車載用など汎用型から先端のAI対応半導体までの製造ラインを構築すれば、わが国の半導体産業が復活する可能性は高まる。波及効果も増えるだろう。TSMCとの連携強化によってわが国の半導体関連企業の製造技術が向上すれば、ラピダスが目指す1ナノメートルの回路線幅を持つ半導体設計や製造が実現するタイミングは早まるかもしれない。

その実現をきっかけに、ラピダスなどと連携強化を目指す世界のIT先端企業は増え、直接投資の増加期待も高まるだろう。海外のIT先端企業などとわが国のエレクトロニクスや自動車関連企業の製造技術が結合することによって、スマホに代わる新しい最終製品が登場する可能性もある。それらは、潜在成長率の向上に欠かせない。

課題は、世界経済の下振れリスクが高まる中で、わが国の関連企業がTSMCなどの意思決定のスピードに対応して研究開発や生産能力を高められるかだ。1990年初頭のバブル崩壊後、経済の長期停滞を踏まえると楽観はできない。半導体産業の復活に向け、わが国は電力などのインフラ強化、人材育成などに総力を挙げるべき時を迎えている。

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