11月23日放送の『ブギウギ』(NHK総合)第8週「ワテのお母ちゃん」39話で、スズ子(趣里)の母・ツヤ(水川あさみ)が亡くなった。スズ子が子どもの頃からたびたび歌っていた母娘の思い出の曲「恋はやさし野辺の花よ」に送られて、ツヤは天に召された。
制作側はこのドラマの3本柱を「エンターテインメントの力」「雑草魂」「母と娘」だと説明している。第1話冒頭で提示された「シングルマザーとして愛娘・アイ子を育て、歌いながら逞しく生きていく」というスズ子の「その後」は、まさしく3本柱のひとつである「母と娘」の物語だ。そしてその土台となるのが、「ツヤとスズ子の母娘の物語」ということになる。この、言わば“第一章”が、第8週でのツヤの死をもって一区切りついた。
母娘が「胸の内をさらけ出す」のではなく…
ツヤとスズ子の母娘関係を語るにおいて欠かせないのは、やはりスズ子の出生の秘密だろう。その昔、出産のため香川の実家に帰っていたツヤは、奉公先の跡取り息子との間に婚外子をもうけて親に勘当され、行き場を失った幼なじみのキヌ(中越典子)に助け舟を出し、ツヤの実家で一緒に産むように呼びかけた。そしてツヤは武一を、キヌはスズ子を産む。ツヤは、キヌの生活基盤ができるまでの間、スズ子を預かると申し出て、2人の赤子を大阪に連れて帰った。
しかしツヤは、我が子として育てるうちにスズ子が可愛くて仕方なくなる。加えて血の繋がった第一子・武一が幼くして病気で亡くなり、ツヤのスズ子への思いはますます強まっていく。スズ子を誰にも渡したくない、自分の子にしたいと思うようになり、香川からも足が遠のいていった。
花田家の長女として、ツヤと血の繋がった次男で弟の六郎(又野暁仁/黒崎煌代)と共に両親からのありったけの愛情を受けながら、すくすくと成長していったスズ子。しかしスズ子が19歳の夏に、香川で親戚から自らの出生の秘密を聞いてしまう。それ以来スズ子の口からも、ツヤの口からも、生母・キヌのことは一切口に出さず、互いに秘密を抱えたまま、ツヤは亡くなった。
ツヤとスズ子が胸の内をさらけ出して、「それでも親子や!」みたいなことを言って泣きながら抱擁を……というような展開を期待した視聴者も少なからずいたかもしれない。しかしこのドラマは、「互いに愛すればこそ飲み込む」という選択をする人もいる、そして飲み込もうとして喉に引っかかったまま一生を終える人もいるのだ、ということを描いた。
ヒロインの母としての斬新さ
さらに、ツヤが亡くなる間際に夫の梅吉(柳葉敏郎)に告げた「遺言」がまた、観る者の心にざらりとした感触を残す。