踊るために直立二足歩行を始めたんじゃないか

【山極】踊りの発生は、音声の発生とセットなんです。どちらも直立二足歩行が条件ですから。手足をついて両手・両足で歩いていると、前肢に体重がかかって胸が圧迫されますから、大きな声が出せません。

【鈴木】立つと上半身が自由になるから、人類は踊りも手に入れた。それがちょうど歌うにも適した姿勢だった。これらの進化は関連しているわけですね。

【山極】私は、我々人間が二足で立って歩いているのは、我々が踊ることになった原因ではなくて、結果であるとさえ思います。踊るために直立二足歩行を始めたんじゃないかと。

【鈴木】それほど、人類にとって踊りが重要だったと?

他者と共感する力が必要になり、踊りや音楽が進化した

【山極】そうです。だって、ヒト以外の類人猿は今も森を出られないんです。天敵が来たら木の上に逃げないといけないから。だけど、ヒトが進化したサバンナには森がないから、なんとかして天敵に立ち向かわないといけない。ときには、自分を犠牲にしてまで集団のために行動する必要だってあったでしょう。だから他者に共感する力が必要になり、そのための踊りや音楽が進化したんだと考えています。

山極寿一、鈴木俊貴『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)
山極寿一、鈴木俊貴『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)

【鈴木】なるほどなあ。そういえば鳥の場合も、都市に出てくる鳥は、群れを作る種類が多いような気もしますね。そして、よく互いに鳴き交わしています。

【山極】ヒトに限らないけれど、集団で興奮を共有しているからこそ可能な行為ってありますよね。敵の集団に打ち勝つとか。強い感情の共有がなければできないことです。しかし、興奮しているだけでは集団としての行動はできません。そこで必要になるのが、言葉ではないか。「あそこを攻撃せよ」とか、一定の目標を与える。つまり、言葉は、感情のエネルギーを制御して方向性を与える役割を持っているんじゃないか。

【鈴木】なるほど、言葉の意味というのは、そういうところから生まれてきたのかもしれないですね。

コメントby SERENDIP

本書の対談は、後半からヒトという生物の本質、そして現代社会批評に及んでいる。森の中で自然と一体となって研究を進めた鈴木氏と、ゴリラの群れの中で過ごした山極氏は、ともにAIやメタバースの発展と普及により、言葉やコミュニケーション、そして脳の機能から身体性や感情が削ぎ落とされることを危惧している。テクノロジーの発展による利便性を享受しながらも、ヒトが動物であることを忘れないことが、人間の可能性を広げる上で重要なのではないだろうか。

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