現場はやりたがるのに、役員が潰してしまう

海外では、ベンチャーが新しいゲノム検査を提供しています。大手企業も提供していますが、核になる技術を開発したのはベンチャーです。例えば米企業「イルミナ」は、「ソレクサ」という小さなベンチャーが開発した技術を購入し、ゲノムを高速で解読できる次世代シーケンサーの最大手になっています。ベンチャーがなければ新しい技術やビジネスはできないと思っています。

――なぜベンチャーでなければできないのでしょうか。

大手企業はなかなか新しいことができないからです。イルミナ社で市場開発の仕事をしている時にそれを感じました。

大手企業を回ると、「新規事業をやりたい」「ゲノムをやりたい」と言うところがたくさんあります。そこで「ゲノムでこういうことができます」とビジネスを提案すると、現場の社員たちは「それは面白い」と言います。ところがそうした企画のほとんどは、役員のところを通らないんです。リスクがあるじゃないかと、言われて。

でもリスクのない新規事業などあるわけないんです。大企業で新規事業を手掛けるのは、ちょっと無理だなという気がします。

理学博士でゲノムベンチャー「バリノス(Varinos)」CEOの桜庭喜行さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

研究してもビジネスにする教授が少ない

――なぜ無理だと思うのですか。

新規事業を担当する社員は、もともと新規事業をやりたくて、その会社に入ったわけではありません。一方、ベンチャーはほとんどの人が、新しい技術を世の中に出したいという思いや、創業者の理念に共感して仕事をしています。やる気の差が明らかに違うんです。

ただ、大企業は買収したベンチャーの技術を育てることはできます。開発力、資金力があるし、優秀な人も集まっていますから。

――日本政府は2000年頃から、研究成果をもとにベンチャーをおこそうという政策を進めてきましたが、ベンチャーに参入する動きは活発ではありません。

日本では、研究とビジネスの間にギャップがあります。海外でも、研究している人とビジネス専門の人がいますが、その中間の人がたくさんいます。研究をしながらビジネスを手掛け、CEOをやっている大学教授がごろごろいます。

日本では研究者は論文を書いて終わりで、実用化まではめんどうをみません。一方、ビジネス側は、お金にならないとやらないので、いつまでたっても研究とビジネスの間に橋がかからないと感じています。

資金の問題もあります。今はわりとベンチャーキャピタルから資金調達ができるようになっているので、きちんとしたビジネススプランを描ければお金には困らないと思います。

Varinos本社にある検査室の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部
Varinos本社にある検査室の様子