3歩進んで2歩下がる
減薬によって回復の兆しが見えた母親だが、3歩進んで2歩下がるような状態。宮畑さんがいれば宮畑さんに、また妹がいれば妹に、妻がいれば妻に絡みつくようにして10分とそばから離れようとしない。口を開けば文句が多く、突然ぽつりと「死にたい」と口にするため、宮畑さんたちまで陰鬱とした気持ちと重い空気に包まれるようになっていった。
「母の人相からケモノ臭が消えましたし、暴言を吐かなくなって、穏やかな時間が増えました。でも、3歩進んでも2歩下がってしまうと、一緒に住んでいる家族は絶望感を味わい、諦めに似た気持ちが芽生えてしまいます」
この頃に宮畑さんの妻がまとめた記録がある。
その中で、[特に気になること]には、
・口数が非常に少ない。(あまり言葉を発しない。質問しても返答に時間がかかる)
・不安を訴える(怖い・寒い・暗い)。一人でいられる時間は約10分程度
・何をしたら良いのかわからないのだが、用事(掃除など)を頼むと文句が出る。
・自分のわがままが通る人の前では突然、重病人に変身する。それがうまくいかないと、かんしゃくを起こし独り言がはじまる。
・食事に対してわがままが多い(ミキサー食に近いものを要求するが、実際にはかめる。辛い・甘い・固い・食べられないとよく発言する)
・文句を言う割に食べる
・日付が分からない、漢字が書けない、洋服の着方が分からなくなるなど、認知症の症状は急速に進行しているが、単なる認知症とは思えない
・被害妄想が非常に強く、マイナス思考
とあった。