医者でもないのに、そんなことが言えるのか!

海外の先進的な情報に加え、自分自身や周囲の女性たちの経験から、山口さんは膣をケアし鍛えることが、全身の美にもつながる可能性があると確信。これまでの美容業界のキャリアも活かしながらビジネス展開を構想する。さっそく以前勤めていた美容メーカーの社長に膣ケア・膣トレ関連のサービスや製品開発を提案するが、難色を示された。

「『膣なんて言葉を使うの? 今じゃないでしょ?』と。(サービスや製品に対して)医者が監修をしたがらない分野だし、無謀だと思われたのでしょうね」

それなら自分の責任でやるしかないと思ったのが4年前。2人の娘も成長して、子育てもひと段落していたこともある。

「これからはもっと自分のために自由に生きようと思いました。ただ、私が身をもって大切さを実感した膣ケア・膣トレを美容につなげたいけれど、もしかしたら、娘たちに恥をかかせるもしれない。そんな不安を抱きましたが、その娘たちが『いいじゃん! やってみたら』と言ってくれたので決心できたのです。そこでインスタグラムなどで発信を始めました」

想定内ではあったが、逆風は思いのほか強かった。「膣ケアできれいになるなんて、医者でもないのにそんなことを言えるのか?」「そんな言葉を使って、恥ずかしくないのか」といった批判の声も多かった。

フェムテック議連の立ち上げが追い風に

そんな折に、自民党の野田聖子氏が会長となって「フェムテック振興議員連盟」(フェムテック議連)が2020年に立ち上がる。フェムテックとは、生理・出産・閉経など女性特有の健康課題をテクノロジーで解決すること。膣という単語を口にするのははばかられても、カタカナになると受け入れやすくなるのは日本人ならではかもしれない。実際、数々の企業がフェムテックの分野に参入し、山口さんにも多くの仕事のオファーが舞い込んだ。以前はネガティブな反応もあった山口さんのSNSも“バズった”という。

その勢いに乗って、文章内容の事実関係を、産婦人科を含む3人の医師・助産師などにチェックを受けた共著『なんとなくずっと不調なんですが膣ケアで健康になれるって本当ですか?』(サンクチュアリ出版)を上梓。

トータルフェムケアの正しい知識の普及に努めるイベントにて
写真提供=山口明美

さらに膣トレ・膣ケアの教育や指導、それに付随するアイテムの監修などの仕事も引き受け始めた。ただ、監修するアイテムはみな、女性のQOL向上に貢献するのが目的だが、商品の写真や文言が過激だと広告掲載を拒否されることもあり、社会全体の無知を感じることもあるという。

とりわけ山口さんが痛感するのは、男性側のフェムテックの理解度が低さだ。なぜなら女性の体を対象にしたアイテムやサービスに関して、関わる企業の担当者が男性であることも多いからだ。それはいいとしても、中には女性の生理や体についてまるで理解してない人や、理解しようともしない人さえいる。

筆者も、かつて生理用ショーツを開発した企業の女性社長のエピソードを思い出した。その女性社長はショーツの製造会社の男性担当者から「女性の生理のことなんて、考えたくもない。ゾッとする」と言われたそうだ。どうやら上司に命令されて嫌々担当しているらしいのだが、その男性には妻も子もいた。それなのに妻の生理にも無理解とは悲しい。