「#Metoo運動」から生まれたキャンセルカルチャー

2017年、ハリウッドの帝王だった映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、性暴力とその隠蔽いんぺい工作の疑いで逮捕された。彼はその後有罪判決を受け39年の刑期を服役中だ。役と引き換えにセックスを強要する彼の行為は映画業界では長年知られていた。名乗り出ただけでも80人以上の犠牲者を巻き込んでいるが、業界ぐるみの隠蔽にはジャニーズ事件と共通点がある。

ワインスタインは疑惑発覚後に、自身のプロダクション会社「ワインスタイン・カンパニー」から追放された。その直後、アップル、アマゾンなどの大企業が次々にワインスタイン・カンパニーとの取引を中止。会社自体も倒産した。

この犯罪事件をきっかけに沸き起こった#Metoo運動はエンターテインメント界を超えて政財界にも広がり、400人以上の芸能人、業界人、政治家が、セクハラや性暴力の責任を問われ姿を消した。

この#Metoo運動をきっかけに、アメリカではキャンセルカルチャーという言葉が頻繁に聞かれるようになる。

キャンセルカルチャーは社会的に容認できない行動や発言をしたとみなされた人々が告発され、排斥されたり商品がボイコットされたりする動きのことを指す。

ターゲットになるのは、主に人種・ジェンダー差別などの人権侵害や、環境破壊など社会正義に反する行為を行った個人や企業だ。排斥の対象になると「キャンセルされた」と言われ、社会的信用を著しく傷つけられる。時には不買運動に発展したり、株価が下落することで、経済的なダメージを受けたりすることもある。

Z世代にとって「消費は投票」

このキャンセルカルチャーの中心にいるのが、アメリカZ世代だ。彼らにとって「消費は投票」とされる。これはどういう意味なのか?

キャンセルカルチャーの中には時に「やりすぎでは?」と感じられるほど過剰なケースもあるが、彼らの行動には理由がある。自らの購買力を駆使して企業に影響を与えることで、人権を守ろうとしているのだ。

「NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所」のメンバー
写真=筆者提供
「NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所」のメンバー

彼らの多くは、自分の価値観に反する企業やブランドから物を買わない。例えば、人種差別的な商品をボイコットし、マイノリティに配慮した企業を支持する。人権に関するメッセージを積極的に発信する企業から物を買う。さらには、働くなら多様性ある雇用を推進する企業がいいと考えている。

こうなると企業は売り上げ減や株価下落などの危機に直面し、彼らの要求に応えるしかない。こうした動きが繰り返され、アメリカの若者と企業は人権や社会正義のメッセージを共に出すことで、社会の潮流を作っている。

これが「Z世代にとって消費は投票だ」と言われるゆえんである。アメリカの企業がこうした動きに敏感なのは、企業の存続に関わる重要な問題だからだ。