「自分のプライドを詰め込んだオリンピックだった」
3度目の五輪は、これまでのようにどんな逆境でも勝ち続けたエンディングとは違う景色になった。それでも、羽生選手はベストを尽くし、すべてを受け入れた。
「全部出しきったというのが正直な気持ちです。明らかに前の大会よりもいいアクセルを跳んでいました。もうちょっとだったな、と思う気持ちはあります。でも……、あれが僕のすべてかな、って思えています。あの前半2つのミスがあってこそ、この『天と地と』の物語が、ある意味で出来上がったのかなとも思います。正直、これ以上ないくらい頑張ったと思います。報われない努力だったかもしれないですけど。ショートからうまくいかないこともいっぱいありましたけど、むしろうまくいかなかったことしかないですけど……。でも、一生懸命、頑張りました」
初めて夢舞台に立ったソチ五輪は19歳で頂点へ駆け上がり、連覇を果たした平昌五輪は直前のケガというアクシデントを乗り越えての栄冠だった。北京五輪までの道のりはコロナ禍もあって、苦悩の連続だった。
それでも、挑戦の歩みを止めなかった王者は「自分のプライドを詰め込んだオリンピックだったと思います」と最後に胸を張った。
報われない努力なんてない――。
羽生選手がきっとそのことを感じたであろう時間は、競技が終わったあとだったかもしれない。
金メダルのネイサン・チェンへ贈った賛辞
羽生選手が右足首の負傷を明かした2月14日の記者会見では、質疑を受け付ける形でスタートする予定だった。
最初に挙手したのは、なんと羽生選手だった。
「質問の前に、僕からお話させていただきます。金メダルを獲ったネイサン・チェン選手は本当に素晴らしい演技でした。前後しますが、大会に関係しているボランティアの方、氷を作ってくださった方にも感謝したい。ショートプログラムでは氷に引っかかって不運な部分もありましたが、滑りやすく気持ちのいいリンクでした」
優勝したチェン選手への最大限の賛辞を贈り、コロナ禍で開催にこぎつけた五輪への感謝の言葉を紡いだ。