アディダスの新モデルは超軽量厚底

近年、世界のマラソンはタイムが急騰している。その最大の理由はシューズが大幅に進化していることだ。

ナイキが2017年夏に一般発売したカーボンプレート搭載の厚底シューズが世界を席巻。メジャー大会の表彰台を次々に占拠した。

2018年のベルリンではエリウド・キプチョゲ(ケニア)が従来の記録を1分18秒も更新する2時間1分39秒の世界記録を樹立。2019年のシカゴではブリジット・コスゲイ(ケニア)が女子世界記録を1分21秒も塗り替える2時間14分04秒をマークした。キプチョゲは昨年のベルリンで世界記録を2時間1分09秒まで短縮している。

“衝撃的な速さ”もあり、世界陸連がシューズに関するルールを改定。「靴底の厚さは40mmまで」に制限された。ナイキ厚底シューズの大成功で、他メーカーも同モデルを研究開発。近年はカーボンプレートを搭載した厚底タイプが続々と登場している。

そのなかでアディダスは足の中足骨をヒントに調整された5本のカーボンスティックをソールに組み込んだADIZERO ADIOS PRO(アディゼロ アディオス プロ)という厚底モデルを発売。ナイキと互角に近い勝負を繰り広げていた。

そして今年のベルリンでアセファが着用していた新モデルは、アディダスが「新時代レーシングシューズ」と謳うだけのインパクトがあった。

写真提供=アディダス・ジャパン
 ティギスト・アセファ選手(エチオピア) 

モデル名は、ADIZERO ADIOS PRO EVO 1(アディゼロ アディオス プロ エヴォ 1、以下エボォ1)。その最大の特徴は「軽さ」にある。

ADIZERO ADIOS PRO 3をベースにしたモデルで、約40%の軽量化に成功。片足、約138g(27cm)しかないのだ。これはナイキの最新レーシングモデルであるヴェイパーフライ 3の約187g(27cm)と比べて約49g軽い。

シューズの性能が同じなら、当然、軽い方が有利になる。

コロラド大学の論文(2016年)によると、シューズが片足10g軽くなると0.078%速くなるという。単純計算では、シューズが片足50g軽くなると、2時間12分00秒のランナーなら30秒ほど速く走れるのだ。

ナイキは「厚さは速さだ」というキャッチフレーズのもと、ミッドソールを厚くすることで、推進力に変換するモデル設計を確立した。しかし、靴底の厚さが制限されたことで、業界全体が「軽量化」へシフト。軽さの面ではアディダスが一歩リードしたといえるだろう。

なお、エボォ 1は9月25日よりアディダスのアプリで限定抽選販売を開始されたのだが、その価格(税込)にも驚かされた。ズバリ、8万2500円。厚底レーシングシューズの相場は3万円前後(ADIZERO ADIOS PRO 3は2万6400円で、ナイキ ヴェイパーフライ 3は3万5750円)のため、2.5倍以上もする(ただしプロトタイプの発売なので今後は価格が下がる可能性はある)。

しかも、エボォ1は標準的なマラソン距離レース1回分(事前ウォームアップを含む)の着用を目安に設計されているという。つまり、1回使い捨て。市民ランナーにとっては贅沢品だが、勝負の世界に身を置くランナーにとっては喉から手が出るほどゲットしたいシューズになるだろう。なにせ世界記録を一気に2分も縮めたのだから。