結論は「日ごろの心構えが大切」
話を戻す。ことほど左様に、『生産システムの進化論』はコクのある出汁が利きまくった濃口の議論の連続攻撃で、その一つひとつが味わい深い。ただし、なんといっても本書の白眉は、濃い議論におなか一杯になった挙句にひょいと出てくる最終章の結論にある。最初にこの本を読んでようやく結論にまで到達したとき、僕は腰が抜けるほどシビれたものだ。
システムを創発させ進化させる能力とは何か。それはようするに「日ごろの心構え」だ、と本書は結論して終わる。「日ごろの心構えが大切」、それだけである。それまで「もう勘弁して!」というほど微に入り細を穿つ膨大な調査の結果と議論が繰り広げられる。その挙句、最後の最後で「日ごろの心構え」。ソーシャルでもクラウドでもグローバルでもオープンでもエコシステムでもない、ただの「日ごろの心構え」。「えっ、それだけ?」と一瞬肩透かしを食ったように思う。しかし、そこが逆にシビれるところだ。
これがいきなり、「ちょっと、おまえ、そこ座れ。いいか、日ごろの心構えが大切だぞ。それが進化能力だ」なんて言われたのであれば、「何言ってんだ、このおっさん……」でおしまいだ。しかし藤本さんの「日ごろの心構え」は、納得のいくまで自分の頭で考えて、自分の手で、それこそもう握力100キロぐらいでロジックをつかんだうえでの結論である。重みと迫力が違う。これだけの前人未踏ともいえる膨大な調査をやり、どうなっているのかを徹底的に解明、そのエッセンスを煮詰めに煮詰めたうえで蒸留してとれた一滴。険しい山を長い時間をかけて登り、ついに山頂にたどり着いたとき、眼前に開ける光景。それが「日ごろの心構え」という結論に凝縮されている。
本書の議論をじっくりたどった後、最後にこの言葉が出てくると、システムの創発と進化の本質が「日ごろの心構え」としか言いようがないものだ、ということが骨身にしみて理解できる。それまでの広範な議論のすべてがズドンと腑に落ちるという感覚がある。こればかりは本書をじっくり通読していただくしかない。