日本への参入と誤解
こうしてアマゾンのビジネスモデルが一つの転機を迎え、新しい方向性を見出しつつあったころ、アマゾンは日本にも進出する。当時、アマゾンは、再販売価格維持制度や委託販売制(特に返品制)という日本特有の制度のために、「強みであった」価格戦略を用いることができない、あるいは制度そのものに影響を与えるといわれていた。このあたりは『アマゾンの秘密』(松本晃一、2005、ダイヤモンド社)に詳しい。また、もともと取次業者が力を持っていた日本の流通チャネルでは、書店側からの垂直統合は現実的な選択肢ではなかった。困難な市場であるともいえた。
日本においてアマゾンは、今でもそうだが、価格競争をしなかった。アマゾンが行った実質的な値引きといえるのは、1500円以上の送料無料だけである。だがこのことは、再販売価格維持制度があったから値引き「できなかった」とみないほうがいい。むしろアマゾンにとっては、値引きする必要がなかったから値引き「しなかった」とみるべきだろう。
2000年11月に日本でのサイトをオープンさせたアマゾンは、カスタマーレビューキャンペーンなどを通じて浸透を図る。そして、まもなく日本でも巨大な物流センターを配備し、販売の拡大を志向していくことになる。すでに在庫リスクの縮減に成功していたアマゾンにとっては、物流センターの配備は至極当然の選択肢だったといえるかもしれない。
はっきりとした資料が残っているわけではないが、当時の新聞等による報道を探してみると、アマゾンの返品率は極めて低いと指摘されている。日本においても、ひとケタ台を維持していたという話もあった。これは、やはりインターネットを前提とした膨大な顧客データに基づく需要予測と、さらにはその背景として大きな販売力があるからだろう。さらにいえば、顧客に素早く情報を提供し、より効率的な販売を促進する機能の存在も、アマゾンの販売力の背景にはあった。
アマゾンが売り切ってくれるというのならば、実質的に返品の心配が少ない。このことは、配荷率を失う可能性があるとはいえ、アメリカでそうであったように出版社にとって大きなメリットとなる。現状の関係はまた違っているかもしれないが、アマゾンの登場は、やがて日本でも大きな意味を持つようになっていった。その後の成長は我々の知るとおりである。