アマゾンという企業

以前、アマゾンの経緯については調べたことがある。ハーバード大学が提供しているケーススタディ教材にバーンズ&ノーブルvsアマゾンというケースがあり、これがマーケティングを考える上で面白かったからである 。このケースを読むと、2000年の初頭まで、アマゾンはまさに書店として、バーンズ&ノーブルやボーダーズといった既存の大手オフライン書店と激しく競合してきたことがわかる。

→「オンラインの覇者(A):バーンズ・アンド・ノーブル対アマゾン・ドット・コム」
http://www.bookpark.ne.jp/cm/contentdetail.asp?content_id=HBSP-705J05

具体的に何をしていたのかというと、価格競争である。このケースに書かれている内容を紹介しよう。ちなみに、実際に取り上げられているのはバーンズ&ノーブルのオンライン店との比較であるが、オフラインの店舗があるということが重要になってくるので、ここではまとめてバーンズ&ノーブルとしておく。

さて、アマゾン設立当初、彼らの大きな競争優位性と考えられていたのは、店舗も在庫も持たない低コスト性であり、さらにはこの低コストを背景にした低価格戦略であった。例えば、創業当時アマゾンは100万種類以上の書籍を提供しながら、シアトルの自社倉庫には2000種類程度しか置いていなかったのだという。注文が入ると取次業者や出版社に発注をかけるという「ジャスト・イン・タイム」方式を採用していた。

一方で、低価格戦略自体は、バーンズ&ノーブルをはじめとする既存の大手書店にも共通する戦略であった。それゆえ、両社は当初激しい価格競争を演じることになったのだった。例えば、1997年5月にバーンズ&ノーブルは全ハードカバー本の30%割引と全ペーパーバック本の20%割引を提供する。これに対してアマゾンは、1ヶ月後、すでに実施していた40%と10%の割引体制をバーンズ&ノーブルに合わせた。さらに、11月20日にバーンズ&ノーブルが最高割引率を40%にまで引き上げると、アマゾンは翌日すぐにこれに対抗している。

泥沼の価格競争にみえるが、大事な点は、こうした価格競争を可能にしていたビジネスモデルを理解することにある。すなわち、同じように書籍の低価格化を推し進めながら、アマゾンと既存の大手書店とでは、低価格化を推し進めるための仕組みが異なっていた。

既存の大手書店の低価格戦略は、大量在庫を引き受けられる大きなバイイング・パワーを通じて出版社と直接取引し、大幅なディスカウントを引き出すことで値下げを可能にしていた。たくさん買うから安くしてくれというわけである。対して、アマゾンは在庫を持たないことでコストを圧縮しつつ、在庫管理の優れた取次業者との流通インフラを整えることで低価格化を実現したのであった。