文化庁がガイドラインを策定するべきだ

4 今後の課題

今回の件の背景には、様々な要因がありますが、タレントが、所属事務所に問題があると考えた場合において、①他の芸能事務所に移籍することが容易であり、②移籍先の芸能事務所に所属しても芸能界(特に、テレビメディア)で干されることなく、芸能活動することができていたのであれば、今回のような問題は、一定程度防ぐことができたと思われます。そういった意味では、今回のテレビメディアの罪は、性加害を助長したものであり、その責任は非常に大きなものであると考えています。

以上から、まず、第1の課題としては、政治と芸能業界の関係性を踏まえると、簡単ではないですが、タレントが自由に芸能事務所を移籍できるようにすることになります。そのためには、タレントと芸能事務所との間のマネジメント契約が公平な契約になるように、韓国のように、行政が先陣を切って、マネジメント契約書の雛型を示すべきでしょう。例えば、文化庁が、この機会に、マネジメント契約書に関する雛型を示し、またガイドラインも策定するべきです。文化庁は、この問題を避けることなく、しっかりと切り込むべきかと思います。

契約内容のチェック
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

すべてのメディアが人権問題について考えてほしい

次に、第2の課題としては、テレビメディアと芸能事務所の関係を踏まえると、こちらも簡単ではないですが、タレントが移籍をしても、芸能界(特に、テレビメディア)で干されないようにする制度作りとなります。具体的には、テレビメディアは、今後、そのような芸能事務所に対する忖度そんたくは一切しない、と声明を出すべきです。

加えて、第3の課題としては、今回のジャニーズ事務所の性加害の報道は、私がこれまで受けた相談の経験からしますと、氷山の一角となります。そのため、芸能業界の人権意識を正常にするために、雑誌・出版メディアを含め、すべてのメディアや各企業としては、所属するタレントの人権を侵害するような芸能事務所とは付き合わないこと、出演を慎重に判断すること、などについて、しっかりと声明を出すべきです。

少し付言いたしますと、テレビメディアだけではなく、雑誌・出版メディアも同様となります。今回、各出版社は、自社の週刊誌を通じて、ジャニーズ事務所の問題やテレビメディアの問題について触れていますが、雑誌・出版メディア業界自らの人権問題については全く触れていません。この機会に、それぞれの業界において、人権デュー・ディリジェンスを意識し、ビジネスと人権問題について、改めて考えるべきでしょう。

弁護士の人権意識も問われている

最後の課題は、私たち法曹界の課題となります。先般、国連人権理事会の専門家が「事業活動の関連で生じる幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い」と日本の裁判官を痛烈に批判しましたが、実際に、芸能人に関する裁判を担当していると、裁判官らの芸能人に対する偏見を感じることもあります。そのため、裁判官らの認識も改めていく必要があります。また、芸能業界に関わる弁護士は少なくありません。今回の問題は、芸能業界に関わる弁護士たちによる「芸能業界だから、このぐらいは許容される」といった人権意識の鈍麻もあったと思われます。ですので、私たち芸能業界に関わる弁護士の人権意識も問われているのだと思います。

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