広告出演契約書にある「信用保持条項」
1 損害賠償が発生する可能性
まず、企業は、タレントを自社のCMに出演させる場合には、広告代理店やキャスティング会社を通じて、芸能事務所との間において、広告出演契約書を締結いたします(詳細は省きますが、このような重層下請のような構造自体も問題とされています)。この広告出演契約書とは、広告主である企業、あるいは広告主の販売する商品やサービスの価値を高めることを目的として締結するものとなります。
そして、一般的には、広告出演契約書では、信用保持条項として、広告主や商品のイメージを毀損するようなタレント又は所属芸能事務所の行為等があった場合には、広告主側は、広告出演契約を解除することができ、かつ、芸能事務所側に対して、損害賠償請求ができる旨の条項を置いています。例えば、この条項が適用されるのは、タレントが、薬物や不倫など不祥事を起こした場合などとなります。
今回の企業(実際は広告代理店)とジャニーズ事務所との間の広告出演契約書の内容はわかりませんが、おそらく同じような条項が規定されているのではないかと推測することができます。そうすると、仮に、このような条項がある場合には、芸能事務所の代表者が所属タレントに対して性加害をしていたこと等が大きく報道された事実は、所属タレントが広告出演することで、広告主の企業のイメージを毀損することは明らかですので、広告主は広告出演契約を当然に解除することができ、それによって企業に損害が生じていれば、当該損害の賠償を求めることができると思われます。
事務所に対して損害賠償が発生する可能性はある
ところで、仮に、このような信用保持条項がない場合であっても、所属事務所の代表者による所属タレントへの性加害等が大きく報道されたことは、広告主である企業やその商品の価値を高めるという広告出演契約の目的に反することは明らかですので、広告出演契約の解除や損害賠償請求は可能と思われます。
以上から、今回の件は、契約違反(債務不履行)として、ジャニーズ事務所に対して、損害賠償義務が発生する可能性は十分にあります。そして、その金額は、企業の広告宣伝費を考えますと、非常に莫大な金額になるおそれがあります。なお、私の経験では、一つの広告出演契約だけでも、1億円を軽く超える可能性は十分にあります。
ただ、実際は、広告代理店やキャスティング会社なども、性加害について知っている度合等によっては、落ち度があるとして、損害を負担しなければならない可能性も十分にありますので、ジャニーズ事務所だけではなく、広告代理店やキャスティング会社の負担も大きいものといえます。