交渉相手は知っている人のほうがやりやすいから歓迎する

ジュリーさんの進退についてもそうだよね。社長を辞任しても取締役のまま、株も100%保持したままということが批判されているけれど、彼女が「そのほうが補償の点でもやりやすい」と言ったことは本当だと思うよ。逆に、例えば誰かと株式を30%ずつ分割していちいち議決して……とやっていたら時間がかかってしまう。100%持っている人が「私財を投げ打ってでも迅速に補償する」と言ったわけだから、それについて文句はない。

補償についても、天下のジャニーズ事務所だから、納得いく金額にしてくれると期待している。その額が大きければ大きいほど、「性加害をしたらこれだけ払わなければいけないんだ」という世の中への抑止力にもなると思う。

こうやって補償について語ると、「金目当てか」とバッシングされるんだよね。でも、この資本主義社会で、民事事件でお金以外にどんな落としどころがあるというのか。私たちが今まで受けたインタビューや特別チームの報告書に詳しく書いてあるけれど、性加害を受けた人は心が傷つき、フラッシュバックに襲われたりうつ病になったりして、仕事や結婚ができなくなっている。それをお金以外の何で償えるのか、代わりがあったら教えてほしいぐらいだよ。

被害者救済のためにも事務所には稼ぎ続けてもらいたい

私たちが当事者の会を立ち上げて見積もった被害者の数はマックス数千人。ジャニーさんは2019年まで存命だったわけだから、今はまだ若すぎて被害を言い出せないという人もいるはず。これから10年、20年、もしかしたら50年後にも被害者が出てくることもありえる。70年前に被害を受けた服部吉次さん(78歳)のようにね。その全員に補償をしてもらうためには、ジャニーズ事務所には恒久的に稼ぎ続けてもらわなくてはならないわけ。

企業ガバナンスの観点からは、今回の会見は甘いと批判されているけれど、つまるところ、被害者救済につながらないと改革の意味はないと思う。

「被害者救済の問題は解決に今後何十年もかかる」と語る平本さん
撮影=阿部岳人
「被害者救済の問題は解決に今後何十年もかかる」と語る平本さん

世の中にはごく少数だけれど、なぜか被害者を叩きたい人がいる。私がBBCの番組「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」(*1)に出たときに「僕そこまで被害に遭ってないんで。マッサージの延長ぐらい」と言ったのもバッシングされている。「それならなぜ被害を訴えているのか、当事者の会を作ったのか」と……。でも、取材に5年間協力して10時間ぐらいの取材を受け、番組に使われたのがそこだけだったんだよ。取材では「自分は被害を受けたと思う」ということも語ったけれど、それは放送されるのが怖いから止めてもらったという事情もある。

*1)「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル