かつては旧ソ連、韓国、中国の3カ所に拠点があった
決心を固め、真正面から「すいぶん前にもうかがったが、例の別班の海外展開先はどこなのか」と切り込むと、さまざまな話を持ち出して迂回しながらも、最終的には海外展開を認め、歴史的経緯と変遷にも言及した。
「かつては旧ソ連、韓国、中国の3カ所だった。冷戦終結後はロシアの重要性が著しく低下して、韓国、中国が中心になった時期もあった。現在の最新の拠点については詳しくは知らない」
また、海外での具体的な任務については、「別班員が海外でやっている仕事はいわゆる、ケースオフィサー(工作管理官)だ」と話してくれた。決定的証言だ――心の中のガッツポーズを見破られないように、冷静に受け止めたそぶりをした。
そして、少し間を置いて「失礼します」と告げるとトイレに駆け込み、メモ帳を広げてボールペンでキーワードを走り書きした。決して上品な行為とは言えないが、この日は不自然なほどトイレに立っては、走り書きを繰り返した。Fからは怪しまれていたに違いない。何しろ、防衛省・自衛隊の情報収集・分析機関のトップを経験したほどの男だ。私がトイレに行った回数や時間を冷静にカウントしていても不思議ではない。
しかし、そんなことに構ってはいられない。まさに必死だった。
「別班の海外情報は防衛省内でどう扱われるのか」
こう問いかけると、Fは詳細を明かしてくれた。
「別班長から、地域情報班長、運用支援・情報部長、陸上幕僚長の順に回す。陸上幕僚副長と情報課長には回さない。万が一の時(副長と課長が)責任を免れるためだ」
まったくの初耳で、まさに当事者しか知り得ない具体的な証言だった。
海外で暗躍する別班員の身分もわかり、決定的な証言を得た
収穫はほかにもあった。非公然情報組織の別班の存在についての認識を求めると、率直に告白してくれた。
「運悪く新聞に書かれたら、自衛隊を辞めるしかないと覚悟していた」
さらにシビリアンコントロールの問題で、首相、防衛相(旧防衛庁長官)の関与についてただしたところ、「(歴代の)総理も防衛大臣(旧防衛庁長官)も存在さえ知らされていない」と断言。海外展開する別班員の身分についても、裏の事情まで教えてくれた。
「海外要員は自衛官の籍を外し、外務省、公安調査庁、内調(内閣情報調査室)など他省庁の職員にして行かせる。万が一のことがあっても、公務員として補償するためだ」
「陸幕(陸上幕僚監部)人事部に別班担当者が一人いて、別班員の人事管理を代々秘密裏に引き継いでやっている」
もう十分だろう――取材はこれ以上ないほどの成果を上げることができた。