YOASOBIの革新性は分業制によるネタ切れ回避にあり
楽曲制作は、もともと古くは、作詞家、作曲家がいて、歌手がいるという世界だったが、1980年代以降は、作詞、作曲、歌唱すべて自身で行うシンガーソングライターが多数デビューした。
著作権料は作詞3%、作曲3%、歌唱印税1%なので、シンガーソングライターになれば7%である。
歌手にとってはシンガーソングライターになるほうが、著作権料という点では実入りが多い。
しかし多くの場合、自分の恋愛体験や友人、知人の体験をもとに歌詞が書かれたりするため、年を取ってくると、歌詞にするための体験も減ってくる。
また、年齢を重ねるごとに、若者たちの感覚とはどうしてもずれてくるため、流行りの作品を生み出すことは非常に難しくなる。
YOASOBIがすごいのは、かつてのアーティストが直面していた楽曲制作の課題を、分業体制によって解決したところにある。
YOASOBIは、もともとソニー・ミュージックエンタテインメントの小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」に投稿された小説を音楽にするプロジェクトからスタートしている。
若者が書いた小説には、それぞれの体験が書き綴られており、そこには歌詞のもととなる可能性がある原作が多数存在する。
「小説×音楽×アニメーション」は一大ジャンルになる可能性がある
つまり、シンガーソングライター一人の経験だけでは限定的だが、小説の素材となる若者の体験は無数にあるため、歌詞のネタ元が無限にある。
それらを音楽にすることで、YOASOBIは新たな分野を構築している。
これにアニメーションのPVを付け加えることで独特の世界観ができあがっている。小説とアニメーションと音楽の分業による掛け算である。
YOASOBIモデルを世界展開することができれば、日本の得意分野に持ち込める可能性がある。日本がK-POPの真似をしても、世界に打って出るには相当な工夫が必要だ。
であれば、YOASOBIモデルのような、新たな分野をグローバル化するほうが、勝ち目があるはずだ。
BTSをはじめとする多くのアーティストの活躍により、K-POPはブームからジャンルに格上げされた。
同様に、小説と音楽とアニメーションの融合分野は、ブームからジャンルに格上げされる可能性がある。実際、YOASOBI以外にもAdoやヨルシカをはじめ新たなアーティストが出現している。
そして、ジャンルが増えることで市場が拡大し、グローバル規模になれば、今の韓国と同じように、日本でもプロデューサーが独立してビジネスを開始する動きが起きるはずだ。1960年代から1970年代にかけて、日本の芸能界で起きたメカニズムが現代の韓国で起こり、現在日本で起きているメカニズムが、いずれ韓国で起きるかもしれない。
これこそ、アナロジーである。アナロジーを使えば未来予測もできる。