「なぜ?」を5回繰り返す

かつてトヨタに勤めていた頃、私は問題解決手法のフレームワークを叩き込まれ、実行するための訓練を受けました。

さすが「トヨタ式カイゼン」で生産性を上げてきた企業といえますが、なかでも特に真因――「これを潰せばよくなる」という諸悪の根源を発見する力が一番大切である、と教わったことを覚えています。

不良品が発生したら、なぜそうなったのか、考えられる要因を一つひとつ挙げていきます。

さらにそれぞれを深掘りして、「それはなぜ起きたのか?」と、「なぜ?」を5回繰り返すのです。

もうこれ以上は手をつけられないというところまで掘り下げるのが、トヨタ式の思考のフレームワークであり、たしかに問題解決に役立ちました。

ただ、トヨタの場合は品質についての問題解決だからこそ、問題にフォーカスした「なぜ?」の繰り返しが有効に働いたのです。

もしセルフコーチングにこの手法をそのまま取り入れてしまうと、

「なぜ、うまくできなかったのか?」
「なぜ、ちゃんと準備をしておかなかったのか?」

……なぜ、なぜ、なぜと、自分自身を極限まで追い込むことになります。悪い部分にばかりフォーカスしてしまうと、人は萎縮していくものです。

仕事で疲れているようすの女性
写真=iStock.com/lechatnoir
※写真はイメージです

ですからセルフコーチングでは、「問題」ではなく「理想」のほうにフォーカスを合わせることが大切です。

どうすれば理想に近づけるだろうか、という視点から問題点を見つけ出します。

「なぜ、この人は成果を上げられるのだろう?」
(→自分がなかなか成果を上げられないとき)

「なぜ、この人はプレゼンがうまくいくのだろう?」
(→自分のプレゼンがうまくいかないとき)

「なぜ、他社のこの商品はリピーターが多いのだろう?」
(→自社の商品はリピーターが少ないとき)

このように、理想に注目しつつ、現実とのギャップを探りながら、「どうすれば、このギャップを埋められるだろう」と考えていくのが、セルフコーチングにおける問題解決のプロセスなのです。

「他には?」――シンプルだけど重要なこの質問

問題が何かわかったところで自問自答すべきは、シンプルに1つ。

「どうすれば問題を解決できる?」

こういうとき、たいていの人は、過去に起きた似通った問題を思い出し、その対応策を当てはめられないか、もしくはうまく応用できないだろうか、と考えます。

昔取った杵柄で解決できたら、助かりますよね。

ただ、ここでなんらかの解決策のメドが立ったとしても、すぐには飛びつかないようにしましょう。ひと息ついて、

「他に方法は?」

と、重ねて問いかけてください。

もう1つ別案が出たとしても、同じように、「他には?」「他には?」を3、4回繰り返して、3つ、4つの別案を引き出すようにしてほしいのです。

コーチングではこれを「水平質問」といいますが、どうしても別案が浮かばないときは、身近にいる尊敬する人を思い浮かべて、

「部長なら、どのように解決するだろう?」

と考えてみるのもいい方法です。

同様に、

「同僚なら、どんな解決策を提案するだろう?」
「先輩なら、どんな手順で対応していくだろう?」

と、いろいろな人の視点を借りてみると、新しいやり方を思いつくことがあります。その他にも、

「解決の手順を3ステップに分けるとしたら?」
「想定より半分の時間で解決まで導くためには?」
「手助けを求めるとしたら、誰がふさわしい?」

といった視点で考えてみると、気づくことがあるかもしれません。

案を出すときには、その効果や有効性などをそれぞれ評価することはありません。たくさん出そろった解決策の中から、一番いい効果が望めそうなものを選べばいいからです。