ニトリは例年、数百人単位の社員をアメリカ西海岸への研修に送り出す。場所はロサンゼルスとラスベガス。対象は新入社員全員と、3年ごとの選抜試験合格者、店長、商品部スタッフである。08年は800人を2回に分けて派遣。うち100人はパート社員だ。
ある試算によれば、ニトリの従業員一人あたりの教育投資は23万円。これは上場企業平均の4.5倍にのぼる高水準だ。小売業は人材活用が鍵だとすれば社員教育に熱心なのは得心がいく。だが、なぜ研修先はアメリカなのか。
「アメリカは遅れているという人がいますが、とんでもない。アメリカのGDPはいまだに世界全体の4分の1を占めています。そして世界一競争が激しい。だから、まずそこを調査するんですよ」(似鳥氏)
先に「定点観測」と書いたが、アメリカでの研修には似鳥氏も必ず参加する。ウォルマートをはじめとして現地の著名店をまわり、商品や客層の変化を観察し、価格を調査し、チームに分かれて実際に買い物をする。対象の店は同業のホームファッションだけではなくあらゆる種類の小売業・サービス業が含まれる。
結果、「ニトリは社員のレベルが高い」とプリモリサーチの鈴木氏は評価する。
「一般社員にまでアメリカ流通業の知識が共有されているんです。だから似鳥社長が号令をかけたときの理解が早い。アメリカの小売業についての知識量は、ニトリの社員は群を抜いています」
鈴木氏にはこんな経験がある。似鳥氏とアメリカのホームファッション・チェーンについて話をしていると、「ああ、ダラスのあの店ね」と即座に応じ、社員に資料を持ってこさせた。一冊のノートである。
「統一したフォーマットでいろんな情報が書き込んであり、写真も貼ってありました。そこにはもちろん商品および商品価格が載っています。それだけのものを社員がつくっているのです」
研修の日程は8泊10日。だが、話に聞く限り、ゆっくり観光している暇はなさそうだ。鈴木氏は「私の知人で、社員と同行した人が『もう二度と参加したくない』と弱音を吐いていました(笑)」という。
昼間はさまざまな店舗をまわり、視察や買い物をする。ホテルに帰ってからは持ち帰った情報や、買ってきた商品をもとにディスカッション。その後は深夜までかかるレポート作成が待っている。
「翌朝、問題の発見・分析・改善のレポートを出さないとバスに乗せてもらえないんですよ」と似鳥氏は涼しい顔だ。
似鳥氏は経営幹部の条件を「勘の冴えた人。敏感で、予測のできる人」と表現する。研修など経験を積ませることで、そうした人材が育つと信じているのである。
※すべて雑誌掲載当時