深刻なのは「制度面の不備」より「従業員のマインド」

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求をめぐり、経営陣によるガバナンスの問題が露呈している。「天地神明に誓って知りませんでした」とする兼重宏行前社長の記者会見での発言は責任逃れと批判され、幹部の言うことを聞かなければ即降格という、恐怖政治が横行する経営体制は悪質というほかない。

車のエンジン内のオイルのチェック
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです

私は勤めていたブラック企業を不当に解雇され、2年近く裁判で争ったことがある。そこでは、営業成績不良や勤務態度不良の注意指導と称して上司に胸ぐらを掴まれるなんてことはザラだったし、草むしりやトイレ掃除などの懲罰的なパワハラもあった。

こうした経験からすると、ビッグモーターを批判する人々やメディアは「少し的外れな議論をしているな」というのが正直な感想である。批判の多くは同社の制度面での不備ばかりで、従業員のマインドの問題にほとんど関心が向いていないからだ。

ビッグモーターを調査した第三者委員会の報告書によると、保険金の不正請求は5年以上前から全国的に行われていたという。それなのになぜ、これほど問題が大きくなるまで不正は明るみに出なかったのか。

同調圧力はさまざまな要因から生まれる

劣悪な労働環境で働いていた「ブラック労働者」は一般的な感覚と大きく異なる価値観を持っている。おそらくビッグモーターの社員は、ブラック体質に洗脳されていたのではないか。

現に元幹部を名乗る人物はYouTubeで同社を「ゴリゴリの営業会社(中小企業)がそのままでかくなった感じ」と発言しており、同社に歪な労働信仰の高さがあったことがうかがえる。

ブラック企業の恐ろしいところは、なんといっても同調圧力だ。「ウチの会社はこうだから」「業界の常識だから」という空気が職場に蔓延すると抵抗するのはほぼ不可能。自分で自分を騙し、心を殺さなければやっていられなくなり「社畜」が大量発生する。そこには早期転職はキャリアの傷になるという恐怖、お金、プライドといった複合的な要因も絡んでいる。

もちろん従業員だけでなく、ブラック企業は経営陣も黒色に染まっている。好例を示そう。

私は勤務時間外に仕事の電話に対応しないから、つまりサービス残業をしないからという理由で解雇通知書を渡された。解雇に納得できなかった私は代表取締役に「助けてください」という内容のメールを送った。