思考停止した「奴隷」が溢れている
しかし、日本人はこれが苦手だ。在職するなら会社に従うべきで、嫌なら転職すべきといった二者択一に悩む傾向がある。嫌々ながらも流されているうちに、組織と戦うための牙を完全に抜かれてしまう。会社への信頼や忠誠心、あるいは協調性が高いといえば聞こえはいいが、炎上覚悟で表現すると、ビッグモーターには思考停止した「奴隷」が溢れているように見える。
さらには、私のように不当解雇した会社を訴え、多額の和解金を得た人間は「訴えずにとっとと辞めろ」「お前の和解金は一生懸命働いている従業員の努力から支払われている」「こんな奴と一緒に働きたくない」と言われる始末。権利を主張する人を叩く「社畜」が多いからこそブラック行為は常態化するし、長年明るみに出ない。このままでは第2、第3のビッグモーターが現れるのは時間の問題ではないだろうか。
組織的な隠蔽体質は、なにも同社に限った話ではない。私が訴えた会社も、私の在職中、ある社員が取引先に対する不正行為に走ったことがある。
具体的には大型トラックで工場向けの軟水(※商品名は例えであり、実際は水ではない)を運んでいた。工場の在庫が尽きそうだとの報告を受け、近場に居たトラックが運んでいた硬水を軟水と偽って納品した。後日、勇気ある者からの内部告発により事件が発覚し、品質の異なる商品を納入された工場側は激怒。取引停止も視野に入れた大問題に発展した。
報告を聞いて真っ青になった所長の一言
業務に精通しているという理由で私が不正事件の調査を担当することになった。そして、やはりと言うべきか、過去に何度も不正を働いた証拠が出てきた。私は所長へ事実通りに報告を上げた。所長は顔を真っ青にしながら言った。
「こんな報告、会社にも工場側へもできない。不正は1回だけだったことにして、その他は隠すぞ!」
このとき所長は、部下の責任問題を問われていた。降格の話も出ていたらしい。よって隠蔽に走ろうとする所長の気持ちは理解できる。が、それだと私も共謀になってしまうので、私は所長代理に所長の言動を含めて報告を上げた。
所長代理から「後は任せてほしい」という発言を得た私は、後は役職者だけでよろしくといったスタンスで本件調査から手を引いた。そしてこの事件から2年が過ぎた頃に解雇通知書を渡された。ちなみに所長は所長のまま働き続け、責任を取らされることはなかった。
運送業に限らず、どの業種どの会社どの個人も、大なり小なり「まぁこれくらいならいっか」と不正に手を染めたことがあるのではないだろうか。それが明るみに出るか、仮に出たとしても取り上げられるかは運次第といったところか。その運をブラック企業が引き寄せない要因の一つとして「人材流動の激しさ」があると私は考えている。