【失敗2】子がリスク回避の介護プランを最優先してしまう

転んだことは内緒にしてほしいと懇願する母

「一般に男性は、仕事をやるかのごとく介護に取り組むんです」

と、男性介護者の特性を指摘するのは、NPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さん。その特性は介護には向かないと、川内さんは続ける。

「男性は介護についても、課題を設定し、その課題をつぶしていくことに熱を入れます。しかし仕事でもなかなか計画通りに進まないのに、ましてや介護が計画通りに進むはずもありません。計画がうまく進まないとストレスがたまり、つい怒鳴ったり手を上げたりしてしまうんです」

厚生労働省による21年の調査では、介護虐待における虐待者の続柄をみると、トップが「息子」で全体の38.9%を占めて、2位が「夫」。つまり息子による親の介護、夫による妻の介護で、虐待が多く発生しているのだ。

そもそも男性が立てる介護プランは、老親の側に立っていないことが多いそうだ。というのも、男性はリスク回避を最優先して課題設定をするからだという。リスクを回避した結果、老親の認知症や体の衰えを進行させてしまうこと、老親の楽しみを奪ってしまうことに気がつかない。典型的な例が、足が悪くなってヨロヨロする母に対し、「転ぶことを防ぐ」ことを課題設定してしまうこと。そのため「買い物には行くな」「料理は俺がやる」と、歩いたり動いたりすることを禁じてしまう。

「息子の心理としては、親に安全でいてほしいのでしょう。わからないでもありませんが、それは自分が安心したいだけのこと。本当に親のためにいいことではありません。そこに気づかない。やりたいことを奪われてしまった親は機嫌が悪くなります。一方で息子は息子で、『こっちはこんなに頑張っているのに親が言うことを聞かない』と不満がたまるのです」(川内さん)

課題設定を親の側に立って変更することで、良い介護となることがある。

軽い認知症で、毎日ニンジンを買う女性がいたという。実家から約2時間ほどの場所に住んでいた息子は、「ニンジンを買うこと」を課題ととらえ、買わせないような努力を始めた。週に2~3回は実家に行き、ニンジンを買わないように釘を刺した。しかしそれでも効果がないので、ついには仕事を辞めて同居しようとした。

この時点で相談を受けた川内さんは、「ニンジンを買いに行かせたほうがいい」とアドバイス。

母親にとっては、ニンジンを買うことが何らかの目標であり、モチベーションの対象であること。くわえてニンジンを買うために街に出ることは、社会と接点を持つことで認知症の進行を遅らせる効果があるし、歩くことで筋力低下の防止に役立つからだ。

当初はまるで鳩が豆鉄砲をくらったような表情だったという息子だが、川内さんの説明を聞いて納得した。

課題設定を「親の側」に変更するだけで、うまくいく