【失敗5】地域包括支援センターを頼らず、自分で頑張ってしまう
介護に熱心に取り組もうとする人ほど、自分ですべてを背負おうとし、公的介護を利用しようとはしない。しかしそれでは介護が持続可能にはならないと、蔵持さんは言う。
「1人が頑張らないといけないというスタイルは、長続きしません。介護殺人事件は、1人に負荷がかかりすぎた結果、起きていると考えられます」
殺人まで思いつめてしまう人はごく一部だが、1人で介護を背負いこむ人は無数にいる。ギリギリまで頑張り、もう自分ではなにもできないほどの状況になってから、ようやく地域包括支援センターに足を運ぶのだ。
センターでケアプランが立てられ、いざヘルパーが家に行くと、熱心な息子との間でもめごとが起きることが多いそうだ。川内さんが言う。
「何年もの間1人で介護を頑張ってきた人は、自分のやり方に絶対の自信を持っています。でもそのやり方は間違っていることも多いんです。そこでヘルパーが他の方法でやろうとすると、『そのやり方では駄目だ。俺の言う通りにやれ』と怒鳴りだしたり、物を投げつける人もいます」
こうした介護者は、長年の介護のために精神的にも追いつめられ、余裕をなくしていることが多い。ケアマネジャーやヘルパーは、介護者の負担を減らして休息を取れるようにプランを立て、実行しようとするのだが……。
「夜中の排泄介助のため、何度も息子さんが起きざるをえない状況でした。そこで息子さんのためにと、『今夜はオムツを厚めにあてますので、朝までゆっくりお休みください』と言ったんです。すると息子さんは怒鳴りだしました」(川内さん)
もはや、一晩に何回も起きて排泄を手伝うことに意義を見出してしまっているわけだ。長年にわたって1人で介護を続けているうちに、頑張ることが介護の目的となり、がんじがらめに縛られてしまう。だからこそ蔵持さんも川内さんも、できるだけ早く地域包括支援センターを訪ねてほしいと語る。
「制度を利用しても、すべての介護を完璧に行えるわけではありません。それを理解したうえで使える介護サービスはすべて使い、持続可能な介護を実現しましょう」(蔵持さん)
「よかれと思ってやったことが正解にならないことは多いんです。ですからプロに相談して進めるほうがいいと思います」(川内さん)
1人で背負いこむのは避けたい。
ひとりケアマネ事業所「自分らしい生き方を支援する会」代表
東京都杉並区・世田谷区で居宅介護支援を行う。
川内 潤(かわうち・じゅん)
NPO法人「となりのかいご」代表理事
近著に『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(共著)がある。