※本稿は、井手正和『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。
最新研究で見えてきた発達障害と不安障害の密接な関係
――大学生のJさん。ゼミの授業で研究発表することになり、迎えた当日。
教授:「では、次はJさん。お願いします」
Jさん:「はい……」
教授:「顔色がすぐれないようですが、大丈夫ですか?」
Jさん:「あ、はい……大丈夫です……」
教授:「では、始めてください」
Jさん:「……(無言)」(どうしよう……全員が私のこと見てる)
教授:「ん? どうしましたか?」
Jさん:「……(無言)」(みんな「お前なんかがうまく発表できるわけないだろ」って思ってるんじゃないかな……)
教授:「Jさん? Jさん?」(初めての体験でガチガチに緊張しているのかな? まあいい経験だよね)
Jさん:「……(無言)」(そうだよね……今までうまくいったことないしね。そんな私がみんなのようにうまくできるわけがない。どうせ今回も失敗するよね……)
――大学からいったん帰宅。アルバイト先に向かうため、駅へと急ぐJさん。
Jさん:(あれ、そういえば家のカギって掛けたっけ?)
~家に戻って確認する~
Jさん:(掛けてたか……よかった。汗かいたから顔を洗ってから出かけよう)
~再度出発するが~
Jさん:(あ、そういえば顔を洗った後に蛇口は締めたかな? 家のカギもちゃんと掛けたかな? また心配になってきた)
~再び家に戻る~
Jさん:(掛けてるよね……)
~駅に向かって出発する。そのとき携帯電話が鳴る~
Jさん:「店長すみません! あと15分で着きます。本当に、本当にすみません!」(いくら確認しても少し時間が経つと不安が襲ってくる……いったいどうすれば私は安心できるの?)
ASD者5人のうち1~2人は不安障害を併発
ASD者(自閉スペクトラム症)の中には不安障害に悩まされている人も多くいます。
不安障害は、社会不安性障害(周囲の注目が自分に集まるような状況で強い不安や恐怖、緊張を感じる)と強迫性障害(強迫観念が強迫行為を引き起こし、日常生活に影響が出てしまう)に大別できます。
この両方を併発している人も、一定数います。
ここでは、ASD者が抱える不安障害の実情と、それらを少しでも和らげるために周囲の人々ができることについて、解説していきます。
「ASD者は社会不安性障害や強迫性障害を併発しやすい」という研究結果があります。2019年に発表された、デンマークの約3万人を対象とした人口統計データを用いた調査では、約20%の不安障害の併発率を示しています。
アメリカのケネディクリンガー研究所の准教授であるVasaたちが2014年に報告した調査なども考慮に入れると、約20~40%、つまり「ASD者5人のうち1~2人は不安障害を併発している可能性がある」ということです。