昔よりも豊かな生活を過ごしているのに…

檀家の高齢者の中には、昔からの地主や資産家、戦争で夫を早くに亡くして苦労された方、長屋暮らしの方など、いろいろな方がおられます。けれども、経済的に恵まれている高齢者であろうが、なかろうが、誰からも同じような答えが返ってきたものです。

つまりお金ではなく、健康を心配していたのです。

そして、その心配通りにならないように、食事に気をつけたり、毎日必ず庭や畑の草抜きをしたりして、自ら摂生しておられました。

実際、そのような高齢者の方々の多くは長生きされています。

97歳、93歳、89歳、75歳、91歳、86歳、87歳……。

過去帳には、葬儀を行った地域の方々の没年齢が記録されていますが、総じて長生きの方が多いことが分かります。

ところが最近では、多くのアンケートが示す通り、檀家の高齢者の悩みも、そのトップが「お金」に変わってきているように思います。

今より生活がずっと苦しかった以前の高齢者よりも、安価なモノが溢れ、明らかに豊かな生活を享受している今の高齢者のほうが、老後資金の心配をしている。

お金に悩むことなく、98歳で大往生した男性

その理由は明らかに、老後には「2000万円以上なくてはならない」という、マスコミによって、知らず知らずのうちに植え付けられた強迫観念なのです。

とはいえ、老後資金はゼロでいいのかと言われれば、もちろんそんなことはありません。潤沢な資金があれば、それは間違いなく老後の安心につながります。

私が住職を務める福厳寺の檀家にSさんという男性がおられました。Sさんは一文無しから入植開拓して財を成し、98歳で亡くなりました。

若いときに苦労はしたけれど、老後資金に頭を悩ますことなく、天寿を全うされたSさん。その成功の秘訣ひけつは、次の3つの生き方にありました。

① 質素倹約の生活をしておられたこと
② 健康に気をつけ、生涯現役で働いておられたこと
③ 地域の方々との交流を大切にしておられたこと