労働局は「大学の自浄機能を信じましょう」

「労基署に行かないように」と言われたことに驚いたAさんは、大学のハラスメント相談の窓口である人事課に相談する。すると、当時の人事課長は、相談メール全文を発言の当事者である所属長に転送した上、「労基署に行かないように」という所属長の発言を容認し、「問題ないでしょう」と回答した。Aさんは大きなショックを受け、もはやどこに相談していいのかもわからなくなってしまった。

ハラスメントの相談を否定された上、異動を迫られたことで、Aさんは体調を崩した。眠れない日々が続いて体重は5キロも減少し、体中にじんましんが出ることもあった。しかし、このままではいけないと考えて、厚生労働省の電話相談で埼玉労働局を紹介してもらい、2021年8月に窓口を訪れた。

Aさんによると、労働局の担当者は話を聞いて、「ハラスメントに間違いない」とAさんの主張に理解を示した。その上で、埼玉大学の正式な相談窓口に訴えて、正当な判断をしてもらうようにアドバイスをした。「埼玉大学には必ず自浄機能がある。信じましょう」という担当者の言葉に、Aさんは少し落ち着きを取り戻した。

「異動要望書」へのサインを迫る

しかし、大学のハラスメント防止委員会はその期待を裏切ることになる。8月末に上司と所属長のパワハラを訴えたところ、調査が開始されたのは11月末で、Aさんへの事情聴取は1回だけ。2022年2月にハラスメント防止委員長から「所属長と上司による一連の行為は業務上当然であり、ハラスメントには該当しない」という結果がAさんに伝えられたのだ。

さらに、この間にAさんにとって信じがたいことが職場で行われていた。Aさんがハラスメント防止委員会に訴えたことを知った所属長と上司が、「Aはモンスタークレーマーだから異動させるべきだ」と主張する会合を何度も開いていたのだ。

その場で上司は、Aさんに関する「異動要望書」を配布し、「課内の職員が多数同意すればAを異動させられる」として、他の職員にサインするよう迫った。当然のことながら埼玉大学には「多数の同意で非常勤職員を異動させる」という制度は存在しない。このような行為がハラスメント防止委員会の調査中に行われていた。

しかも、ハラスメント防止委員会が「ハラスメントには該当しない」と結論を出したあと、Aさんは上司と「意思疎通ができていない」ことを理由に勤務評定で評価を下げられた。そして、これまでの業務内容と全く関係のない部署への異動を命じられた。理由は「減員計画による」ということだったが、もともといた部署は慢性的な人員不足で増員も決まっていたことから、Aさんには詭弁きべんとしか思えなかった。