突然死の原因を探るべく「鳥葬」を調査

実際に血圧を測ると、4割の人が高血圧で、200ミリを超える超高血圧が多い。しかも突然死が多く、中国の中でも短命地域であることが分かりました。しかし、突然死はチベットでは「行いがよいので仏さまの元に招かれた」と祝福され、鷲に食べてもらって天に帰る鳥葬に付されることが多いとのことでした。

私たちは、突然死の原因が、食塩過剰摂取による「脳卒中」なのか、脂肪過剰摂取による「心臓死」なのかを判別するために、ご遺体の血管を観察したいと思い、実際の「鳥葬」の様子を見学させていただく機会を得ました。

早朝に、大きな石の鳥葬台にご遺体が載せられ、僧侶の祈祷が始まると、多くの鷲が舞い降りてきました。それとともに、遺体の解体が始まります。私たち健診チームは最敬礼しながら、ご遺体に近づいて、大動脈などの血管の状態を観察しようとしました。すると、その時、周囲から私たちに向けて石つぶてが次々と飛んできて、健診チームの一人に当たったのです。危険を察した私たちは、バラバラに岩陰に隠れ、その間に、鷲たちがご遺体をついばみ天に持ち帰っていきました。

せめて大動脈に動脈硬化があるか確認できればよかったのですが、結局死因は特定できず、私たちはジープで駆け付けた人民解放軍によってなんとかその場から救出されました。

知られざる長寿地域で食べられていたもの

このように、様々な事件に遭遇しつつも私たちは中国五都市での健診を終えたのですが、その後、中国側から、「実は、長寿で有名な地域があるのでそこの調査もしてほしい」と依頼され、追加でその地域の調査に行くことになりました。その知られざる「長寿地域」が貴州省の省都、貴陽でした。

貴州省は中国の南西部、雲貴高原に位置し、プイ族とかミャオ族といった少数民族が全省人口の3分の1を占める地域です。当時、中国では最貧省に近いにもかかわらず、なぜか長寿者が多いのでその理由を調べてほしいとのことで、1987年と1997年に調査に行きました。飛行機の上から大地を見ると、高地にお椀で土を盛ったような丸い山がポコポコとあり、山肌は白い色をしています。石灰の多いカルスト地形なので、稲作には不向きと思われ、おそらく主食はお米ではないだろうと推測しました。

中国貴州省の曇りの日に西江銭湖ミャオ族の村をドローンで撮影
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです

現地で聞くと、主食は、大豆とトウモロコシとのこと。この2つを同じ土地に混栽していました。これは非常に理にかなった農法です。大豆は、根粒バクテリアが大気中の窒素をアンモニアに変換(窒素固定)し、植物の生育に欠かせない窒素肥料を自分で作りだします。大豆はトウモロコシより収穫時期が早いのでまず大豆を収穫し、その茎や葉を土に戻し、それがトウモロコシの肥料にもなるというわけです。