食塩摂取量が少なく大豆を豊富に摂取していた

現地のマーケットに行ってみると、たくさんの野菜と一緒に色とりどりの大豆が並んでいました。そして、屋台では、生の豆腐、焼き豆腐、厚揚げなど、さまざまな豆腐製品が売られています。

一番感心したのは、「干豆腐」という、硬めの豆腐を圧縮、脱水させ、干して作られたものです。それを薄切りにしたり、麺のように細切りにしたりして、豆乳などで茹で、唐辛子を入れたピリ辛の味付けで、うどんのように食べるのです。納豆も売っていました。納豆の発祥の地は日本だという話を以前聞いたこともあったので、これには大変驚きました。

しかも、この地では、わらに包まなくても、蒸した大豆に干した布をかけておくだけで納豆ができるというのです。おそらく、空気中に納豆菌がたくさんいるのでしょう。納豆の本当の発祥地はこのあたりなのではないかと思いました。健診の結果は、中国では広州に次いで食塩摂取量が少なく、1日平均9.2グラム。血圧も平均112ミリと低めでした。

さらに、女性は通常、更年期を迎えると女性ホルモンの作用が少なくなり高血圧になりやすいのですが、貴陽では血圧の上昇があまり認められませんでした。この健診結果から、私たちは、大豆に多く含まれる物質「イソフラボン」に、その秘密があるのではないかと推測したのです。イソフラボンは、大豆の茎になる「胚軸」の部分に多く含まれ、女性ホルモンの「エストロゲン」の構造と非常に似ている物質です。

ラット研究で見えてきたイソフラボンの健康効果

そこで私たちは、まず、100%脳卒中を起こす遺伝子を持った「脳卒中ラット」に、イソフラボンを餌に入れて食べさせる実験を計画しました。ところが、当時、純粋なイソフラボンは1グラムが約100万円もする高価なもので、とても使用できるものではありません。

医療研究の科学者の検証実験用マウスを閉じ込めたガラスの檻。彼女は光の研究室で働いています。
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困っていたらたまたま、ある会社が大豆食品を作る時に、胚軸の部分が白くてカビのように見える上に味も苦みがあるので、わざわざ胚軸を外して使っていると聞きつけ、その胚軸をいただき、ラットの餌に混ぜ込みました。「脳卒中ラット」も、卵巣のあるメスは、通常、オスに比べて緩やかに血圧が上がり、ゆっくり脳卒中が起こります。

ところが、卵巣を取って女性ホルモンをなくした「更年期ラット」は、オスと同様に血圧が上がりやすく、脳卒中も起こりやすくなります。食べる量も増えて肥満になりやすく、毛づやもなくなります。そこで、卵巣を取った「更年期ラット」に、大豆の胚軸を混ぜ込んだ餌を与えてみると、肥満傾向が解消され、血圧も上がりにくく脳卒中も起こりにくくなり、さらに毛づやまで美しくなりました。

女性ホルモンと似た効果を持つイソフラボンが、長寿の鍵を握っている可能性が出てきたのです。