「住みたい街」と「住み心地が良い街」は全然違う

「住みたい街」と「住み心地の良い街」の両方を全国で調査しているのは、いい部屋ネットだけなので、その結果の違いを見てみよう。

【図表】「住みたい街」と「住み心地が良い街」
筆者作成

首都圏、関西の駅ランキングと自治体ランキングをそれぞれ「住みたい」「住みここち」で比べてみると、あまり一致しない。

首都圏の駅ランキングで住みたい・住みここちの1~5位の両方にランクインしているのはみなとみらいだけで、そのほかの顔ぶれは全然違う。

首都圏の自治体ランキングでは、住みたい・住みここちが多少一致しており、1~5位には東京都港区、武蔵野市、東京都目黒区がランクインしている。

一方関西版を見ると、住みたいと住みここちの両方のランキングの1~5位はバラバラで全く共通性がない。

「住みたい街」と「住み心地が良い街」が違うのは、そもそも住みたい街とは、単なる人気投票だからだ。人気投票である以上、知名度が勝負になる。そして知名度と同時に「住みたい街は?」と聞かれたときに、すっと思い浮かぶ街である必要がある。このすっと思い浮かぶことを「純粋想起」と言い、結局、いつも遊びに行っている街が思い浮かび、つい投票してしまう、という訳である。このことは、「よく遊びに行く街」という設問があるいい部屋ネットのデータでも裏付けられている。

「住みたい街」とは「よく遊びに行く街」

さらに、いい部屋ネットの住みたい街ランキングはフリーワード入力なので、純粋想起だが、SUUMOのように都道府県→沿線→駅と住みたい街を選んでいく方式では、とりあえず自分が住んでいる都道府県を選び、次の沿線リストでは、つい上のほうの沿線を選んでしまう、ということが起きる。これは「純粋想起」とはいえず、手がかりとなる要素が設問に含まれている「助成想起」の傾向が強くなる。

SUUMOの住みたい街ランキングの5位に住む場所などあまりなさそうな東京が入っているのは、東京駅には、山手線、東海道線、京浜東北線など多数の路線が乗り入れており、沿線を選んだあとの駅選択の最初に出てくることが多いことが影響している可能性がある。

また、いい部屋ネットの2022年版の住みたい街ランキング首都圏版では、住みたい理由、住んでいない理由の分析も行っており、住みたい理由の7位には「よく遊びに行く街だから」が、8位には「住みたい街として有名だから」があげられている。

そして住んでいない理由の1位は「家賃が高くて払えそうにないから」であり、2位は「不動産の価格が高くて買えそうにないから」、3位は「物価が高そうだから」となっている。

さらに、街との関係の1位は「よく遊びに行く」であり、7割前後の回答者は住みたい街での居住経験はなく、可能性としても、4割前後が「現実的には一生住まないと思う」と回答している。

夕暮れ時の東京タワーが見える景色
写真=iStock.com/somchaij
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