手頃な価格の食料品やサービスが入手困難

誤解を避けるため、急いで付け加えておかなければならないのだが、ジェントリフィケーションが進行したからといって都心から下層階級がいなくなったわけはないし、都心住民が全員、富裕層になったわけでもない。「国勢調査」の集計表から都心の階級構成をみると、2020年時点でも依然として、多数の労働者階級や旧中間階級が居住している。

港区を例にとると、資本家階級の比率は20.3%と23区最大で、新中間階級の比率も42.7%と高いが、労働者階級と旧中間階級もそれぞれ28.3%、8.7%と、それなりの比率を占めている。しかも労働者階級の半分近い12.5%は非正規労働者である。また「住宅・土地統計調査」から所得分布をみると、年収1000万円以上の世帯の比率は22.7%と意外に低く、400万円未満の方が35.8%とはるかに多い。

とはいえジェントリフィケーションの進行は、これら下層階級の人びとの生活に大きな影響を与える。下層階級向けの商売が成り立たなくなり、自営業者の廃業や流出が進行して、手頃な価格の食料品やサービスが手に入らなくなるからである。

都心で生まれている「利害の対立」

実際、都市工学研究者の中村恵美や地理学者の岩間信之などの研究によると、港区のいくつかの地域では、食料品を扱う店が高級スーパーに偏っているため、多くの人々が遠方の非高級スーパーまで行って買い物をすることを余儀なくされており、食料品の入手が困難な「フードデザート(食料砂漠)」の様相を示しているという。流入した中上層階級のライフスタイルが市場を変化させ、下層階級が不便を強いられるのである。

このように都心では、ジェントリファイヤーたちと旧来から住んでいる下層階級の間に利害の対立が生まれている。そしてこのことは、両者の意識にも反映される。私は2022年はじめ、東京・名古屋・京阪神の三大都市圏の住民を対象として、大規模なインターネット調査を行った。有効サンプルは4万3820人だが、今回は東京23区、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市の住民を対象とした分析結果を紹介したい。