かつては都心にも労働者と自営業者が多く住んでいた

たしかに都心部は、昔から平均的な所得水準は高かった。しかし、所得の低い人々もかなり住んでいた。かつて東京は日本最大の工業都市であり、都心を取り巻くように多数の工場が立地していた。ここで働く労働者は、工場の近くに住むことが多かった。そして労働者とその家族の生活を支える、商店やサービス業などに従事する自営業者も、都心にたくさん集まっていた。千代田区や港区の内陸部の丘の上には高級住宅地があり、富裕層が住んでいた。しかし同様に、労働者と自営業者も多かったのである。

ところが高度経済成長が終わり、さらに経済のグローバル化が始まると、製造業は衰退に向かっていく。都心の工場は閉鎖され、労働者が減り、労働者を顧客としていた自営業も衰退していった。しばらくすると、工場や古い住宅地、衰退した商店街などの跡地、湾岸の埋め立て地などに集合住宅が建ち並ぶようになる。

そして90年代末になると、建築基準の規制緩和とともに、都心から湾岸部にかけて高層住宅、いわゆるタワーマンションが林立するようになった。都心は地価が高い。さらにタワーマンションの上層階には眺望や優越感といった付加価値があり、間取りにも余裕を持たせていることが多い。当然価格は高くなるし、住民の多くは富裕層、あるいはこれに準ずる人々である。

東京タワーの見える夜景
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大都市で進行する「ジェントリフィケーション」

こうして都心部の住民構成は、大きく変わることになった。この変化は、階級構成の変化をみるとよく分かる。経済学や社会学の用語で階級とは、経済的資源の所有状況や経済的地位の違いによって人々を分類したものであり、経営者・役員を「資本家階級」、専門職・管理職や正規の事務職を「新中間階級」、新中間階級以外の被雇用者を「労働者階級」、自営の商工業者や農民を「旧中間階級」と呼んで、4種類に分類することが多い。

そして都心の階級構成に起こった変化は、低所得の労働者階級と旧中間階級が減少し、ここに生まれた空白を豊かな資本家階級と新中間階級が埋めていくというものだった。こうした変化は、先進諸国の大都市に広くみられるもので、「ジェントリフィケーション」と呼ばれている。そして都心に流入してきた豊かな人々は、「ジェントリファイヤー」と呼ばれる。