コロナ禍で若者たちの一人家飲みが定着した

蔚山ウルサン濁酒のイ・ボムヒョン研究室長は、このブームの理由を次のように説明する。

「新型コロナウイルスのパンデミックにより、韓国の飲酒文化は大きく変わった。家で一人で酒を楽しむ習慣が定着し、『ホンスル(一人酒)』『ホームスル(HOME酒)』という言葉もはやり出した。ホームスルでは、保存性の高いウイスキーや、ウイスキーをベースにしたミクソロジー(Mixology=MixとTechnologyの合成語で、酒と好きな飲み物を混ぜ合わせたカクテルを指す)が人気を得ている。ハイボールはミクソロジーの中で最も手軽に作れて、若年層のウイスキーへの参入障壁を下げる役割を果たしている。

若年層が日本文化に親しんでいるのも一因だ。かつては日本式居酒屋でしか飲めなかったハイボールが、日本食や日本旅行のブームに乗ってどこでも飲める大衆的な酒になった。ハイボール発祥の地は欧州といわれているが、韓国ではすっかり日本の酒という認識が広がっている」

シネコンに5種類のウイスキーを揃えた専門バーがオープン

ハイボールブームはマーケティングの面でも大いに役立っている。韓国最大の映画館チェーン「CGV」は、大型シネコンである新村アトレオン店内に角瓶など5種類のウイスキーと各種炭酸水を備えたハイボールバーを運営している。観客減少に苦戦する劇場街の集客施策のひとつだ。CGV関係者は「当社は主力店舗ごとに顧客層に合わせた体験型エンターテインメントを提供している。若い観客層が多い新村では、お客様が好みに合う1杯を選んで楽しめるハイボールバーをオープンすることになった」と明らかにした。

新村アトレオンに設置されたハイボールバー
筆者撮影
新村アトレオンに設置されたハイボールバー。各種ウイスキーが並ぶ

若年層が主な顧客であるコンビニも力を注ぐ。業界1位の「GS25」は17種のハイボール缶を、「セブン‐イレブン」が8種、「CU」が7種のハイボール缶のラインナップを構築し、「ハイボールデー」などの販促イベントを実施している。

さらに、大型スーパーやコンビニでは「ウイスキー限定販売」のマーケティングも盛況を呈している。ネット販売が不法な酒類はスーパーやコンビニの中核商品のひとつだが、なかでも品薄が続く人気ウイスキーを限定販売することで、酒類の代表チャンネルとしての地位を固めようとする戦略だ。人気銘柄の入庫状況をスマートフォンアプリを通じて告知することで、新規顧客やロイヤルカスタマーの確保を狙う動きもある。