「意味への欲求不満」に陥りがちな現代人

人は誰でも、生きがいのある人生(生活)を送りたいという欲求を持ち、この欲求を満たそうと日々闘っています。しかし、フランクル氏は、私たち現代人の多くは、意味への欲求不満に陥っていると言っています(諸富祥彦『フランクル心理学入門 どんな時も人生には意味がある』角川ソフィア文庫、96〜98頁)。

“意味への欲求不満”とはどういうことでしょうか。フランクル心理学には“意味への意志”という言葉が出てきます。意味への意志をフランクルの著書から意訳すれば、“生きる意味”を追求する欲求です。この欲求が満たされない限り、私たちは人間として満たされない、ということです(V.E.フランクル『それでも人生にイエスと言う』春秋社、183頁 ※訳者山田邦男氏による解説)。

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「大きな不満があるわけでもないのに人生が虚しい」「他人と比べて複雑な思いになる自分がいる」「あらゆる面で成功したい」――カウンセラーの私のもとには、Eさんに似た相談が多く寄せられます。フランクル心理学の視点から考えると、このような悩みは、自分を中心に人生を描いている限り消えることはなさそうです。

自分の理想や夢に囚われて…

良い仕事に就いて、年収が上がって、人から尊敬されて……、たとえそれらが叶ったとしても、その状態に慣れてしまうと当初の高揚感や充足感がなくなります。そうすると、他人と比べたり、さらに上を目指さないと気が済まなくなったりします。周りから見れば、収入や仕事、家庭などに恵まれている人であっても、人生に虚しさを感じ、意味への欲求不満に苦しんでいるのはそのためです。

そう言われると、フランクル心理学においては、理想や夢を持つことは良くないのか、理想がモチベーションになったり、夢が生きがいになったりすることもあるのではないか、という疑問を持つ人も多いでしょう。

しかし、自分の理想や夢にこだわる人は、その理想や夢に近づけば充足感を感じ「人生に意味がある」と思える一方で、理想や夢から離れていく状態にあれば「こんな人生に意味はあるのか」と嘆くことになってしまいます。