※本稿は、リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。
鬼コーチに育てられた11歳の少年が下した決断
「父さん、母さん。僕、ゴルフをやめるよ」
マーヴィンの両親は、11歳の息子からそんな話を聞かされてショックを受けます。
マーヴィンは州内で上位に入ったばかりで、どうしてゴルフをやりたくなくなったのか、両親には見当もつきません。それどころか、いい結果を出せて喜んでいるとばかり思っていたのです。
コーチはマーヴィンの指導にとても熱心です。マーヴィンの試合にはいつも同行し、何時間も練習に付き合います。ゴルファーとして将来有望だと、マーヴィンのことを見込んでいるのです。
コーチは、マーヴィンが集中していなかったり、真面目にやらなかったりすると、怒鳴りつけます。「マーヴィン、何やってるんだ? お前ならもっとできるだろ。そんなプレーをしていたんでは、大会でトップ5には入れないぞ」。
初めのうちは、そんなふうに怒鳴られてもマーヴィンは気にしていませんでした。コーチはゴルフの試合のことを熟知していますし、マーヴィンもそんな彼に多くのことを学び、信頼も寄せていました。それになにしろ、ゴルフが大好きで、いい結果も出せていたからです。
「8歳児並みだぞ」罵倒が頭にこびりついた
ゴルフが負担に感じられるようになったのは、ある大会の準々決勝で実力も経験も格下の選手に敗れてからでした。
初日の18ホールを終えてスコアが8オーバーまで後退してしまうと、近づいてきたコーチにこう言われました。「みんなが見てるっていうのに、みっともないプレーをして。これじゃ、8歳児並みだぞ」。
この言葉がずっと頭のなかをぐるぐるとめぐり、マーヴィンは著しく気持ちを乱してしまいます。残りのホールでも集中力を欠き、結局、準々決勝2日目で敗退してしまいます。
ボギーを叩くたびに苛立ちを募らせ、自分のことを怒鳴りつけたり、クラブを叩きつけたりする場面もありました。そうしてマーヴィンが崩れていく様子を、コーチは嫌悪感をあらわにただ見ているだけでした。