日本で公表する人は少数派だが興味深い傾向が…

日本でも子育て支援が充実し、且つ世間の見方が変われば、選択的シングルマザーを選択し、公表する人が増えるのだろうか……? そう考えていると、伊藤さんが興味深い傾向を教えてくれた。

「利用者全体からすると少数ですが、日本にもかなり高所得で経済的に自立した選択的シングルマザーはいて、この人たちは周囲の批判をまったく気にしていません。海外経験やキャリアがあり、ご自身の選択に責任を取ることに慣れているので、『これは自分が選ぶことであって、他人にどうこう言われるような話ではない』という信念があるんですね。だから周囲にも『精子バンクで子どもをもった』と、あっけらかんと公表しています」

なるほど、そこまでいくとスッキリしている。子どもをもつと決めたなら、その選択に誇りをもってほしいと筆者は思う。生まれてくる子どものためにこそ、だ。

子どもを産んでからパートナーを見つけるという手

なおデンマークでは、シングルで精子バンクを使って子どもを産み、そのあとでパートナーを見つける人も多いという。日本でもそういった人は、今後増えていくかもしれない。女性の出産リミットを考えたら、そのほうが理にかなっているだろう。日本では、出産は結婚前提で考えられているが、出産と結婚は切り離せるし、順序を入れ替えてもいい。出産の前に結婚を求めることが、出生率の低下を押し進めている面もあるはずだ。

伊藤さんは、選択的シングルマザーを検討する人たちを「貴重な存在だ」と指摘する。

「そもそも社会のサポートがこれだけ薄いなか、自分でお金をかけて精子提供を受け、ひとりで子どもを育てようとしている人たちは、すごく貴重な存在ですよね。そこまで強く『子どもを産みたい』と思っている人は、今あまりいないわけですから。

そういう人たちを私は大切にしてほしいと思います。シングルでも困窮せずに子どもを育てられるような国は、誰もが子どもを育てやすい国であると言えると思うのです」

夕暮れ空で親手を握る少女のシルエット
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なお、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯になった理由が「未婚」の割合は、2003年が約6%だったところ(離婚が約80%、死別が12%)、令和3年は約11%と、上昇傾向にある。未婚で子どもをもつ人は、社会が変われば、さらなる増加が予想される。