最高の贅沢はサイゼリヤ。貧しいと孤独になる

手元に残った5万5000円から奨学金の返済分を抜くと、純粋な生活費として使えるのは4万3000円ほどだ。

「食費は絶対に1万8000円以内に収めるようにしています。だから買い物は閉店間際のスーパーと100円ショップだけです。値段のことを気にせず欲しいもの、食べたいものを買いたいと思うことがあります」

最高の贅沢はアルバイト代が入ったときだけ行くサイゼリヤでの食事だが、税込みで1000円が上限。

お洒落とも無縁で、女性には必需品の化粧品も倹約対象だ。以前は資生堂や花王の化粧品を使っていたが、今は低価格のちふれ化粧品か100均で売っているものが定番。

「服はバザーで調達することがあります。リサイクル店より安いから」

幼稚園、社会福祉団体、宗教団体などが主催するバザーで手に入れたものは、ウインドブレーカー、セーター、ジャージなど。どれもタダ同然の金額だった。

「収入が少なく、自由に使えるお金がなくて一番つらいのは、人付き合いができなくなることです。貧しいと孤独になるんです」

まず大学時代の友人たちとはほとんど交際がなくなった。年賀状のやりとりぐらいだ。

「特に結婚した人、子どもが生まれた人とは話が合わなくなって、何となく疎遠になってしまいましたね」

今やっているアルバイト先の人たちとも個人的な付き合いは皆無。

「世間話的な会話はするけどそれだけです。本当に上っ面だけの関係ですね」

かつて想像した普通の人生ははるか遠くに

恋人はいない、友だちもいない、金銭的にも豊かではない。そうなると休みの日でも外出することなく部屋でツイッターを見ている。

「外出しなくなると自分と世間を繋ぐものはスマホだけになります。だけど滅入ることもありますよ。SNSを見ると有名人や起業家、自称投資家なんていう人たちがこれ見よがしにリア充ぶりを見せつけたり俺様自慢をしていますから、ああいうのを見ると劣等感を覚えちゃいます。自分とは人種が違うと思いますね」

増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)
増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)

もう派遣会社はあてにできないから時間を作ってハローワーク通いしている。だけどまだ新しい仕事は得られていない。

「不動産仲介会社の面接では、あなたの年齢では宅建士の有資格者で実務経験のある人が望ましいと言われてしまいました」

当日の夕方に不採用を知らせるメールが届き、翌々日には提出した書類を返送してきたそうだ。

「一般事務職の代用で派遣社員をやっていただけでは職歴とはみなされません。この先、どうなるのか不安です。本当に」

学生の頃は卒業したら普通に会社勤めをし、そのうち結婚。子どもができたら専業主婦に。35歳頃までにマイホームを買って中の上ぐらいの生活レベルを維持する。

そんな人生が普通で自分もそうできると思っていた。だけど普通ははるかに遠いところにあり、今は日々の生活を営むだけで精一杯。こんな生活からは1日でも早く脱したいと願う。

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