4月から自転車を利用するすべての人に「ヘルメットの着用」が努力義務になった。なぜヘルメットが必要なのか。ジャーナリストの柳原三佳さんは「自転車は身近で便利な乗り物だが、転倒や衝突事故によって頭部にダメージを受け、重症化するケースが多い。身を守るには、ヘルメット着用は最重要の安全装備になる」という――。
山本一真さん
筆者撮影
山本一真さんは2002年7月、自転車で少年野球の練習に向かう途中に事故に遭った。左半身麻痺・高次脳機能障害の後遺症がある。

「自転車のヘルメット着用」が努力義務になった

2023年4月1日、改正道路交通法が施行され、自転車を利用するすべての人に「ヘルメットの着用」が努力義務化されました。

<道路交通法 第63条の11>
第1項 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
第2項 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
第3項 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

「努力義務」というのは、「~するよう努めなければならない」という意味で、「義務」とは異なります。ヘルメットをかぶっていなくても罰則はありません。自転車ヘルメットの着用はどこまで浸透するだろうか……。そう懸念した通り、残念ながら着用率は伸び悩んでいるようです。

着用率については、法改正がされたばかりのため国による全国調査は行われていません。しかし、各地から発信されているローカルニュースからその一端がうかがえます。

例えば、京都新聞は6月3日付朝刊で「自転車ヘルメット着用率、1割届かず 『髪形崩れる』傾向続く」と題する記事を掲載しています。

京都府警が交差点やスーパーで自転車の目視調査を行ったところ、5月は3431人中、ヘルメットを着用していた人は288人(8.4%)。2月に行った調査(着用率は3.9%)に比べて増えてはいるものの、いまだに1割に達していません。

髪形が崩れる、ダサい、暑い…

警察の他、地元の新聞記者たちも定点観測を行い、着用率を調べています。福島県の地元紙・福島民友では、福島、会津若松、郡山、いわきの4市の自転車通行量が多い路線で着用状況を調査。5月5日付の記事によると、計1668人中、ヘルメットを着けていたのは81人で、着用率は4.9%にとどまったそうです。

同様のニュースが多数発信されていますが、いずれも「ヘルメットの着用が努力義務化されたが、普及率は低迷している」といった内容でした。

「髪形が崩れる」
「努力義務だから」
「ヘルメットが何となくダサい……」
「みんなかぶっていないので、一人だけ浮いてしまうのはイヤ」
「ヘルメットが荷物になる」
「暑い」

車椅子で移動する山本一真さん
筆者撮影
車椅子で移動する山本一真さん。母せつみさんの介助が欠かせない。

ヘルメットをかぶらない理由を尋ねると、多くの人はこうした理由をあげるようです。通勤・通学で自転車を利用する人が多くいる一方、思春期の学生さんたちは、気恥ずかしさがあるようです。

こうした状況に、兵庫県姫路市の山本せつみさんは、真剣なまなざしでこう訴えます。山本さんは、交通事故の後遺症(左半身麻痺・高次脳機能障害)を抱える長男を介護し続ける母親です。