詐欺師というと、口がうまいことにとらわれがちですが、彼らは聞き上手でもあります。経験則から「聞く7割」「話す3割」で話を展開しています。この聞く比率が「8~9割」になれば、何か聞き出されていると相手に疑いの気持ちを抱かせてしまうので、さじ加減は絶妙といえます。

もし、電話や訪問で相手の事情をよくわからずに、一方的に話をする営業マンがいたとすれば、契約に失敗することでしょう。自分のことを話すのは3割程度にとどめて、残りの7割を相手に話をさせることで、商談が成立する確率はぐっと上がります。

そしていざ契約の本題に入るときには、一気にその比率を逆転させて、「話す7割」「聞く3割」で交渉を進めます。それにより契約の成功率は高まることになります。これは詐欺師らも使う初対面の相手と話をするコツです。

「あなたに知っておいてほしいことが3つあります」

詐欺師らの説明のうまさにも舌を巻きます。競馬詐欺グループから電話を受けたとき、男は「絶対に当たる競馬情報があり、事前に着順は決まっている」と言います。そのとき私は競馬初心者の形で応じると、丁寧に説明をしてきました。

男は「あなたに知っておいてほしいことが3つあります」と切り出し「1つ目は、競走馬を育成しているAグループの存在です。このグループにより仕込み(やらせ)レースが存在します。2つ目は、競馬情報会社Bの存在です。ここにはAグループから多くの役員が入っており、当社はB社から情報を手に入れられます。3つ目は発走する際の枠順です。表向きはコンピュータによる抽選といっていますが、実際にはやらせ馬が勝てるように枠順が決められています」と、ポイントを3つに絞って、話をします。

これは「マジックナンバー3」ともいわれる話術で「大事なことは3つある」と頭のなかに3つの箱を用意させて、話を進めることで理解させやすくしています。もし頭のなかの箱が4つも5つもあれば、話が長くなり相手は物事を覚えきれなくなり、嘘の話を植え付けられなくなります。

かといって、1つ、2つだけでは説得力に欠けてしまいます。プレゼンなどで自分の意図することを相手に伝えたいときには「大事な点は3つあります」と要点を絞って話すことで相手の心をつかむことができます。

過去に億単位の甚大な被害を出した手口に、老人ホームの入居権詐欺があります。なぜ、多くの人が騙されたかといえば「自分で思いつかせて選択させる」という手口を使ったからです。まず詐欺グループは高齢者宅に完成予定の老人ホームのパンフレットと入居権利申込書を届けておき、こう電話をかけます。

「この地域に老人ホームができるようですが、パンフレットが届いていないでしょうか?」

このとき、パンフレットを送った業者ではないところから電話をかけて、第三者を装います。封書が届いた直後ですので、高齢者が「きてますよ」と答えると「実はこの封書が届いた地域の方しか申し込めないのです。当社には、老人ホームに入居したい人がいるのですが、それができません。パンフレットを譲っていただけないでしょうか?」と詐欺師は畳みかけます。そして、「入居権利を持っている人しか申し込みができないので、あなたのお名前で申し込みしてもよいでしょうか」とお願いをします。