真実は本人たちしかわからない
本妻の場合、「本妻とはかくあるべし」「良妻賢母の鑑とは」という時代の縛りもあるはずだ。本妻もまた夫を赦し、夫を殺した愛人に寛大な気持ちを表明することで、世間から「なんと出来た奥様だ」と感嘆されたかったのではないか。
いや、これは下衆の勘繰りでしかなく、本当に彼はI子をかばいたかった、本妻も心からそう思っていたというのもありだが、彼らには私好みの物語を求めてしまう。彼はひょっとしたらモテモテ人生だったのに、常に女に心底から愛されていないといった不安があり、刺されたとき「これほど俺は愛されていた」という嬉しさのあまり、そんなことを口走ってしまったのではないか。
本妻は、あまり好きな言葉ではないがマウントを取りたかったのかもしれない。
「可哀想ね、ただの遊びだけの愛人で捨てられて。私は大事にされてる本妻、あなたよりずっと立場も身分も上なの。だから憐れみをかけてあげる。とことん私の勝ちね」
繰り返すが、すべては私の想像、妄想である。広末さんと不倫相手のそれぞれの配偶者が、かつて殺された男の本妻みたいになるかどうかもわからないし、どんな態度や対処であれ、「それが正しいのだろう、当事者には」と思うしかない。
遺伝子には逆らえない
そういう私本人は、不倫という行為そのものには興味も解釈も持たない。自分が当事者になろうが他人がやろうが関係ない。そこから派生する私好みの物語にのみ惹かれる。だからこの原稿の依頼が来たとき、仲良しの漫画家である西原理恵子に「不倫についてどう思う」と相談してみた。
ご存じ、彼女がダーリンと呼ぶのは高須クリニック院長だ。
「高須かっちゃんが『世界中のカップルが浮気をしなければ、性病は絶滅する一代病理だ。しかし生物は、自分の子孫をたくさん残そうとする遺伝子命令で動いている。それに乗っかったウィルスが一番賢い』といってるよ」と聞かされ、なるほどと腑に落ちたし戦慄もした。
とはいえ高須かっちゃんも理恵子も、浮気はしていない。遺伝子には逆らえないが、倫理や規範や理性で抑え込めはするのだ。
この意見を補強してくれたのが、こちらも仲良しの書道家、山﨑秀鷗先生だ。
「不倫は文化といって炎上した人もいたけど、不倫、浮気は本能なの。昔、オナニーも精神の病気だといわれたのよ。宗教的な理由で禁じられたこともあったし、男はやるけど女はやらない、と今もって信じてる人がいるほどよ。同じく同性愛も、病気扱いされた時代があった。いつか治って異性を好きになれるなんて、真顔でいってくる人もいたし。さすがに今の時代、そう信じる人も、面と向かって当事者に、あんたは悪いことをしていると責める人も減ったけどね」
そういえばうちの父方も母方も祖父母は、結婚式の日に初めて相手を見たといっていた。結婚とは家と家の結びつきで、当時はそれが珍しいことではなく、恋愛結婚というものがふしだらな「野合」で、まともな家の者がするものではないといわれていたのだ。
遺伝子や本能にも動かされるが、時代によっても人は操作される。
さて改めて若き日のI子の妖艶な姿を眺め、もし広末さんが透明感あるルックスではなく、こんなだったらと想像してみた。……逆に、ここまで叩かれてないかもしれない。