なぜ政治家の世襲は批判されるのか。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「伝統芸能や医師といった『特異』な世界の世襲は関心を集めない。一方で、政治家は『みんな』にかかわる職業であり、さらには、ひょっとすると誰にでもなれる可能性のある立場だけに、世襲に対して強い反応が引き起こされる」という――。
首相官邸に入る岸田翔太郎首相秘書官=2023年5月15日、東京・永田町
写真=時事通信フォト
首相官邸に入る岸田翔太郎首相秘書官=2023年5月15日、東京・永田町

秘書官を辞任しても翔太郎氏への批判は止まない

岸田文雄首相の長男・翔太郎氏は、6月1日付で内閣総理大臣秘書官を辞任した。

5月25日発売の「週刊文春」で、昨年末に首相公邸で行った「忘年会」の写真が報じられたからであり、岸田首相は、記者団にたいして「公邸の公的なスペースにおける昨年の行動が、公的立場にある政務秘書官として不適切。けじめをつけるため交代させることといたしました」と述べた。

すでに過去のものとなったはずなのに、いまだに翔太郎氏への批判が止まない背景には「世襲」が問題だとする世論がある。

岸田親子は「バカ息子」か「親バカ」か

「バカ息子」と翔太郎氏を非難したり、「親バカ」と岸田首相を批判したり、世間の声は発覚から3週間が過ぎたいまもなお厳しい。

翔太郎氏の辞任は、解散・総選挙を視野に入れた、実質的な更迭と見られており、支持率低下の要因をできるだけ早く切り捨てたかたちである。

首相や翔太郎氏の「公的なスペース」をめぐる認識が甘かった、との反発だけではない。

それ以上に、首相が長男を秘書官に任命していたのは「世襲」のためだったのではないか、とする反感が渦巻いている。

そもそも政治家の「世襲」とは何か

たしかに、これまでも総理大臣は、みずからの親族、というか、「息子」を秘書官に据え、将来の「世襲」に備えてきた。

故・安倍晋三氏の父・晋太郎氏は義父の岸信介首相に仕えたし、福田康夫氏は首相時代に長男の達夫氏を起用している。

総理秘書官に限らなければ、安倍晋三氏は父の外務大臣時代に秘書官として、岸田首相みずからもまた父・文武氏の議員秘書として、それぞれ働いている。

地盤(後援会)、看板(知名度)、さらにはカバン(資金)、と言われる3つの「バン」を引き継がせる上で、さらにはくをつけ、永田町(政界)や霞が関(官界)での人脈を広げるために、秘書にする。

何重にも高い下駄を履かせれば、選挙には大きく有利になる。これが「世襲」だと言われているのだろう。