新聞によってニュースの書き方はどれだけ違うのか。ジャーナリストの池上彰さんは「同じ調査データを基にした記事でも、注目したポイントによって、見出しは正反対になることがある。記事の内容を正しく理解するには、見出しだけでなく本文まで熟読することが大事だ」という――。

※本稿は、池上彰『新聞は考える武器になる 池上流新聞の読み方』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

積み重なった新聞
写真=iStock.com/artisteer
※写真はイメージです

朝日新聞は「理科の勉強が楽しいのに成績は低下」

同じデータを基にしても、新聞社によってトーンの違う記事になることは、よくあるものです。でも、これだけくっきりと違いが出るのは、ちょっと珍しいかも知れません。

2020年12月9日付の朝日新聞朝刊は1面で、数学・理科の国際調査の結果を報じています。記事の見出しは、〈小4「理科楽しい」 でも平均点は低下〉というものでした。本文を読んでみましょう。

〈のべ64カ国・地域の小学4年と中学2年が参加した2019年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)で、日本の小4理科の平均得点が03年以来初めて低下した。理科の勉強が楽しいと答えた小4の割合は過去最多の92%で、学習意欲をどう学力につなげるかが課題として浮かんだ〉

勉強が楽しければ成績も上がるはずなのに、そうはなっていない。これは不思議です。これについて文部科学省は「様々な要因があり、中長期的な分析が必要」と説明しているそうですが、本文で理科教育の専門家は「小4の得点が下がった理由ははっきりしない。小中の指導の連携を強め、注視していく必要がある」とコメントしています。

日経新聞は国際平均と比較して「学習意欲が低下」

これだけを見ると、日本の子どもたちの学力は大丈夫かと不安になります。同日付の日経新聞はどうか。こちらの見出しは、〈小中の理科 順位下げる 学習意欲の低下なお課題〉とあります。

朝日の記事では小4の学習意欲が高まっていると書いてあるのに、日経では低下しているという。日経の記事本文を読んでみましょう。

〈「算数・数学の勉強が楽しい」と答えた小4は77%で、中2は国際平均から10ポイント以上下回る56%にとどまった。「理科の勉強が楽しい」と答えた中2も同様に70%だった。小4理科のみ国際平均より6ポイント上回る92%だった〉